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その日の夕方、保育園に迎えに行ったみおは、今朝、今生の別れかの様に預けた時と変わらず可愛いかった。
「おつかれーま 」と抱き付いてくる姿に、思わず「天使かよ 」と呟く。みおの顔を見れば疲れなんて一瞬で吹っ飛んだ。
夜は、夕食の後、2人で貰ってきたレモンタルトを食べた。今日もプルプルしていて、真祝は笑いながらみおを抱き締めた。
「もう! 何でそんなに可愛いんだよぅ! ねぇ、明日もそんなに可愛いのっ? 明後日もずっと可愛いのっ?! 」
つるすべの頬っぺに自分の頬をスリスリと合わせれば、キョトンとした後、みおがニコッと笑う。
「まお、すき 」
「……っ!! 」
愛しさに胸がキュンとなる。
サラサラの黒髪、利発そうに煌めく黒金剛石の様な瞳。我が子が、愛した男に生き写しに生まれて来てくれて本当に良かったと思う。
ただ気になるのは、素直で聞き分けが良過ぎることだ。育児書などを読むと、2歳児はイヤイヤ期で大変だと書いてあるが、みおには殆んどそれが無かった。保育園でも常に「今日もお利口さんでしたよ 」と先生に言われる。
「良い子過ぎて心配だなんて、贅沢な悩みだよな 」
レモンタルトをもう一口、口に入れたみおの髪をサラリと撫でる。
「もうちょっと、我が儘言ったっていいんだぞ、海音」
真祝は、今も愛している男から、一字貰った愛しい子供の名前を呼んだ。そして、叶わないことと解っていても、もう一度だけでいいから、あの胸に響く低い優しい声で名前を呼んでもらいたいなと思った。
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