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潮の香りがする。そこは海の近くだった。本格的になってきた夏の日射しが、海に照り返して目が痛いくらいに眩しい。
「本当にやってくれるよな。こんな縁も縁りも無い場所、見付かる訳ねぇよ 」
真祝には、肉親と呼べる者は誰もいない。住民票や戸籍の附票などから調べることは不可能だった。友人達も誰も知らない。自分でも、思い当たる所は全て探した。だが何処にも居ない。気持ちだけが焦っていた。
それにしても時間が掛かり過ぎた。結局は、同時進行で頼んでいたプロが居場所を突き止めてくれるのに、1ヶ月も掛かってしまった。
「……ここ、か? 」
テラスのある、海沿いの小洒落れたカフェ。
あんなに会いたくて、抱き締めたくて、夢にまで見て夜も眠れなかったのに、実際に会えるとなると入り口で足が止まってしまった。
……俺らしくもねぇ。
頭を振って、一歩踏み出す。
もう、何も遠慮はしない。アイツの為じゃない、自分の為に、だ。
木製の枠の扉を開く。
「いらっしゃいませー 」
店内に響く、女性店員の声。
正面にあるカウンターの直ぐ横のテーブルに、小さな子どもが後ろ向きで座っているのが見えた。
「すみません、こちらに柚井 真祝が居ると…… 」
自分の声に子供が振り向いた。途端、二海人はその場から動けなくなる。
「あっ、まほちゃんのお知り合いの方ですか? すみません、丁度今、買い物を頼まれてくれて外出てるんですよ……、お客さん? 」
「あの子、は?」
近寄って来た店員が、二海人の視線の先を追い、子供を見て微笑む。
「あぁ、可愛いでしょう? あの子は…… 」
聞かなくても分かる。一目見て、直ぐに分かった。あの子が、真祝の産んだ子、……俺の子供なんだと。
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