8.

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二海人はフラリと、吸い寄せられる様に子供に近付いた。傍らに跪いて、子供と視線を合わせる。 艶のある真っ黒な黒髪と、まだ小さいのにこちらを見定める様な瞳。見れば見る程、自分の幼い頃にそっくりだ。 「こんにちは 」 震える声を何とか抑える。後ろから、「お客さん、もしかして…… 」と店員の声が聞こえた。しかし、敢えて聞こえないフリをする。 「こんにちわ 」 礼儀正しく子供が頭を下げた。 「名前は何ていうの?」 知らない人間と話をしてはいけないと躾られているのだろうか、子供は黙っている。二海人は怖がらせないよう、優しく笑い掛けながら、「俺はね、嵐柴(あらしば) 二海人(ふみと)っていうんだ 」と先に名乗った。 子供は賢そうな光を湛える瞳で、じっと二海人を見詰めた後、「ゆずい みお 」と言った。 『みお 』……、『みお 』、か。 響きが、胸の奥に染み込んでいく。 「『みお』くん……、いい名前だね 」 そう言うと、みおは得意そうな顔をする。 「おとおさんと、おなじなの 」 「お父さん? 」 コクコクとみおが頷く。 「おとおさんにもらったの。『うみ 』って、じなの 」 心臓がどくんと鳴った。 そうか。『みお』の『み』は、『海』という字なんだな。 そして、思う。真祝、お前はどういう気持ちでこの子の名前を付けたんだよ? 「お父さんは、何処にいるの? 」 真祝がみおに自分のことをどう話しているのか知りたくて、そう聞くと、みおは可愛いらしい顔を曇らせる。 「みおのおとさんね、おつきさま、いるの。だから、あえないの 」 「月? 」 「うん。だって、おつきさま、うんととおいでしょ? ねぇ、おにいちゃ、まおのおともだち? 」 ずっと、聞きたかったのか、みおが体をこちらに向けて聞いてきた。 「友達とはちょっと違うかな 」 「ちがうの? どこから、きたの? 」 二海人はふっと微笑むと、そっとその柔らかな頬に触れた。 「お月様だよ 」
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