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二海人はフラリと、吸い寄せられる様に子供に近付いた。傍らに跪いて、子供と視線を合わせる。
艶のある真っ黒な黒髪と、まだ小さいのにこちらを見定める様な瞳。見れば見る程、自分の幼い頃にそっくりだ。
「こんにちは 」
震える声を何とか抑える。後ろから、「お客さん、もしかして…… 」と店員の声が聞こえた。しかし、敢えて聞こえないフリをする。
「こんにちわ 」
礼儀正しく子供が頭を下げた。
「名前は何ていうの?」
知らない人間と話をしてはいけないと躾られているのだろうか、子供は黙っている。二海人は怖がらせないよう、優しく笑い掛けながら、「俺はね、嵐柴 二海人っていうんだ 」と先に名乗った。
子供は賢そうな光を湛える瞳で、じっと二海人を見詰めた後、「ゆずい みお 」と言った。
『みお 』……、『みお 』、か。
響きが、胸の奥に染み込んでいく。
「『みお』くん……、いい名前だね 」
そう言うと、みおは得意そうな顔をする。
「おとおさんと、おなじなの 」
「お父さん? 」
コクコクとみおが頷く。
「おとおさんにもらったの。『うみ 』って、じなの 」
心臓がどくんと鳴った。
そうか。『みお』の『み』は、『海』という字なんだな。
そして、思う。真祝、お前はどういう気持ちでこの子の名前を付けたんだよ?
「お父さんは、何処にいるの? 」
真祝がみおに自分のことをどう話しているのか知りたくて、そう聞くと、みおは可愛いらしい顔を曇らせる。
「みおのおとさんね、おつきさま、いるの。だから、あえないの 」
「月? 」
「うん。だって、おつきさま、うんととおいでしょ? ねぇ、おにいちゃ、まおのおともだち? 」
ずっと、聞きたかったのか、みおが体をこちらに向けて聞いてきた。
「友達とはちょっと違うかな 」
「ちがうの? どこから、きたの? 」
二海人はふっと微笑むと、そっとその柔らかな頬に触れた。
「お月様だよ 」
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