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そう言った瞬間、みおの顔がぱぁっと輝く。
「おつきさま! おとさんっ? 」
「そう、みおとまほを迎えに来たんだ 」
「みおの、おとさん!!」
躊躇いなく胸に飛び込んで来た我が子が、限り無く愛おしい。きっとこの子も、自分が分かった様に、直ぐに理解したのだ。抱き締めながら、細く柔らかい髪に顔を埋める。その時だった。
ドサリと落ちる荷物の音。
「みおから、離れろ……っ! 」
次いで聞こえた声に、鼓膜があまく震えた。
振り向けば、恐い表情をしながら、一直線にこちらへ向かってくる真祝の姿が目に映る。二海人は、みおを抱いたまま立ち上がった。
「……みおを、返せ 」
「……。」
正面に立ち、自分を見上げる真祝から目が離せない。睨み付けられているのに、瞬きも出来ない程、可愛いくて堪らないなんてどうかしている。
「まほは、抱き付いて喜んでくれないの? 」
軽口に、ギリッと睨む瞳の光が強くなる。二海人は、ふぅっと溜め息を吐いた。
まぁね、自分のして来たことを考えれば、一筋縄じゃいかないこと位、分かってはいたけどね。
「そんなに恐い顔するなって。みおも恐がってるだろ、ほら……? え? 」
真祝に渡そうとすれば、イヤイヤをしながらみおが二海人にしがみついてくる。
二海人は宥めるようにみおの頭を撫でると、そっとその小さな耳許に内緒話をするみたいに囁いた。
聞いたみおがビックリした顔をして二海人の顔を見る。
「ほん、と? 」
「本当だよ。だから今は、まほん所に行きな 」
頷いたのを確かめて、二海人が大人しくなったみおを真祝に差し出せば、引ったくる様に奪われた。手から暖かい重みが消えて、寂しくなる。
「何しに来た 」
「最愛のまほちゃんと、俺の子供に会いに 」
二海人は後ろ手でテーブルに両手を付くと、真祝にニッコリと笑い掛けた。
ギョッとした表情の後、真祝が叫ぶ。
「お前の子じゃないっ! 」
「そうなの? 」
ピクッと自分の蟀谷が動いたのが分かった。
「そうだ! 」
見ると、真祝に抱かれているみおが不安そうな顔をしている。それはそうだろう、突然現れた、父親だと名乗る男とそれを否定する母親。誰だって不安になる。幼い子供なら、尚更にだ。
二海人は先程よりも、大きな溜め息を吐き出した。
「な、何だよ 」
じっと見詰めてやると、真祝が焦ったように顔を反らす。
変わらない反応。大丈夫だ、真祝にはまだ俺に対する感情が残っている。
「それにしても、あんまりじゃないのか? お月様ってさ、俺のこと殺すなよ 」
「星よりマシだろ…… 」
ハッとした様に真祝が慌てて自分の口を押さえた。だがもう遅い。
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