8.

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分かっていても、実際に真祝の口から聞くと嬉しい。 二海人が月にいると言っていたことを認めたということは、みおの父親は二海人だと言っているも同じだ。みおに、父親は月にいると教えていたのだから。 しまったという表情(かお)をする真祝に、二海人はふっと微笑う。 覆水盆に返らず、破鏡再び照らさず、落花枝に上り難し、It is no use crying over spilt milk……。 うっかりと言えど、口から出た言葉は2度と戻すことは出来ない。 「そうだな、星よりいいな。お月様には兎さんも居るし。なっ、みお」 そう言うと、「ふぉっ、うさぎしゃんっ! 」とみおからキラキラした目で見られた。 「……っ! 二海人、お前っ、本当に何で来たんだよ! 」 「さっき言ったじゃないか 」 何も分かっていない真祝に肩を竦めると、「冗談はいい 」と言われた。 「誰に聞いたか知らないけど、それはお前の勘違いだ 」 何も足跡(そくせき)を残さなかったくせに、勘違いも何もない。この期に及んでまだ誤魔化せると思っている真祝を、呆れるを通り越して可愛いと思う。 「もう()めよう、真祝 」 声色を変えて近付いて来た二海人に、真祝が後退(あとずさ)る。それを許さず、大股で近付いた二海人は、すかさず真祝の手を取ると、みおごと抱き寄せて間近にその瞳を捕らえる。 「諦めてたものが折角手に入りそうなのに、これ以上我慢する気なんか全然ねぇんだよ 」 気持ちを押さえた声が掠れる。目許を染めた真祝が、コクンと喉を鳴らしたのが分かった。 これでも、自分のしてきたことの自覚はある。それに対しての後悔は元よりするつもりは無い。自分はそうすることで、真祝を幸せに出来るとずっと信じていたからだ。だが、その結果がこれだというのなら、喜んで受けてやろうじゃないか。 信頼も愛情も取り戻す為には、零れた水も、割れた鏡も、落ちた花やミルクだって元に戻してやる。自分にだって、それぐらいの気概はあった。
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