8.

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********** 今、一体何が起きているんだ? 正面の大水槽の前で、海音と二海人が手を繋ぎ、2人で一緒に沢山の魚を指差しながら見上げている。こうして見ていると、誰が見ても普通の親子にしか見えない。 今日は仕事が休みで、海音(みお)と水族館に行く予定で、その前に、みすずさんが店に出勤()ていると聞いたから海音を見せがてら寄ることにした。だけど、顔を出した店では今日配達してくれる筈の豆がまだ届いていなくて困ったことになっていた。店長は店を空けられないし、みすずさんは車の免許持ってない。それならと海音を預けて、車ならそう遠くはない仕入れ先まで自分が取りに行くことを申し出て……。 頭の中が混乱している。全くもって、意味が分からない。誰か、この状況を教えて欲しい。 大水槽を見渡せる場所のソファーに座る真祝は、上げた両膝を抱えた。 店に戻って店内を見た時、自分は焦がれ過ぎて幻を見ているのかと思った。そこには絶対に居る筈の無い男が、海音と居たからだ。けれど、それが現実だと理解した瞬間、全身の毛が総毛立った。 海音を産んだことは自分が勝手にしたことで、父親が誰かということは一生隠し通さねばならない真祝1人の秘密だった。特に父親である二海人には何があっても知られてはいけないことだった。 その秘密を見透かすみたいに、全て知っているかの如く二海人は言う。あまつさえ、自分のことを愛しているかの様に。 ……キス、されるかと思った。 『諦めてたものが折角手に入りそうなのに、これ以上我慢する気なんか全然ねぇんだよ 』 欲望を秘めた、熱情を堪える様な瞳を思い出して、真祝は火照る頬を自分の腕で押さえた。 狡いよ、ヤバい……。こんなん、勘違いするなって方が無理だ。 正面の大水槽の中、大きな魚が2人の前を横切った。海音が興奮してはしゃいでいるのが見える。何だか泣いてしまいそうだ。 「まおー 」 視線に気付いたのか、振り向いた海音がこちらに駆けてくる。 「まお、おさかな、すごいの! おっきーの! 」 「うん、見てたよ。凄く大きかったねぇ 」 歩いて来た二海人が、海音の後ろから少し遅れて来た。 「すっかり懐いてるな。海音の相手してくれてありがとう 」 「そんなの、礼を言うことじゃあ無いだろう 」 二海人が、苦笑する。それに対して、真祝は海音の頭を撫でながら首を振った。これは、当然のことなんかじゃない。自分と海音からしたら、夢みたいなことだ。それに。 「その、……さっきは悪かったな 」 「何が? 」 「店でだよ 」 あぁ、と二海人が笑って隣に座った。 「何んのことかと思った 」 自分は立ち尽くしていただけだった。動揺して、何をすれば正解なのかも分からず。 その間、二海人は真祝の落とした荷物を拾い、店長に渡して、何かを話していた。店で騒いだ後始末を付けたのは全部二海人だった。自分の職場なのに、何て情けない。そして、もうひとつ言って置かなければいけないこと。 「それから、海音は俺1人の子だから。お前は何も気にしなくていいから 」
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