月夜の小鳥は哀切な嘘をつく。1

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「……それで、いい 」 俯いて瞳を伏せれば、水滴が一粒ポトリと落ちた。 泣きたくない、二海人の前で泣きたくなんかないのに。 指先が目尻に触れるのを感じる。 指の背で涙を拭われたと思ったら後頭部を片手で掴まれ引き寄せられて、二海人の肩口に顔を埋めさせられた。 「さっきは、怖かっただろ? ごめんな 」 囁かれた言葉に、二海人が先程のことを勘違いしていることが分かった。 案に、しかしはっきりと、昔からの夢が叶わないと言われたことが悲しいのだというのに。 でも、考えれば当然のことだ。 運命の番など全く関係のない、βの普通の男であれば、わざわざ面倒臭いΩの男など選ばなくても、可愛らしい女の子の方がいいに決まっている。 ましてや、二海人はβと云えども、皆に全てに於いて『αよりもαらしい』 と言われるくらいの男だ。 二海人は余計なことは言わないから真祝が知らないだけで、相手に不自由している筈がない。 実際、二海人も言っていた。『お前 “は” 初めてだろう 』と。 『お前 “は” 』と言うことは、二海人は違うということだ。
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