8.

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つん、と軽く引っ張られただけなのに、有り得ない引力に引き寄せられる。それでも寸前で躊躇えば、首元まで伸びた手に一気に落とされた。 「しても、いいだろ? 」 口唇が触れてしまうかしまわないかの距離で、何を今更。 「……っんなこと、聞くなっ、んっ 」 潜めた咎めは、あまい吐息に遮られる。重ねた口唇に、頭の芯がじんとして痺れた。 やっぱり不思議だ。(つがい)じゃないのに、二海人とのキスはこんなにも心を満たす。 柔らかな口付けは段々に深みを増し、与えられる以上にもっと欲しくなった。 ーーーこのまま、抱いてくれないかな? 最初で最後だと思っていたあの日のことを思い出すと、怖くないと言ったら嘘になる。だけど、それよりも、本当に二海人がここにいるのだと実感したかった。ずっと諦め続けていた、焦がれて止まない男の存在を確かめたかった。 それにまだ発情期では無いし、拒否反応も今のところは無さそうだ。 臀部に下りて来た手に、ゾクリと切ない様な快感が落ちて、身体が震えた。 すると突然、二海人の動きが止まり、あやすみたいに背中を優しく叩かれる。 離された口唇に、どうして?と瞳で問えば、もう1度触れるだけのキスをされ、包むみたいに抱き締められた。 「今日は疲れたよな、もう寝ようか 」 「二海人は、疲れた? 」 「……そうだな 」 もっと欲しい、もっと感じたいのに、そんなことを思っていると知ったら呆れられてしまうだろうか?
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