8.

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言おうか言うまいか躊躇している間に、二海人が自分を置いて立ち上がってしまう。 「布団、1つしかないだろ? まほはいつも通りに海音と寝て。俺はリビングで寝るから 」 「ちょっ、二海……?! 」 「コラ、しぃっ。海音が起きちゃうぞ? 」 微笑みながらそう言うと、腰を屈めて真祝のおでこにキスをした。 どくんと鼓動が大きな音を立てる。 「じゃあな、おやすみ 」 どこまでもイケメンな男は、にっこりと爽やかな笑みを残して部屋を出ていく。 襖が閉められて、部屋が月明かりだけになった。 真っ赤になりながら、キスされたおでこと口唇をそれぞれの手で押さえていた真祝は、その場に置いていかれた気がした。 「ばか、二海人 」 そのままポテンと、すやすやと眠る海音の横に横たわる。そこにはまだ二海人の温もりが残っていて、真祝の胸はきゅうっと締め付けられた。 今日の今日だし、その気にならなかっただけだよね? 疲れてるだけだよね? 思い過ごしならいい。 ポタリと一滴落ちた墨汁(すみ)が、透明な水をじわりと濁らせていく。 結婚しようと言ってくれた、それが本当なら時間は沢山あるんだから。焦る必要なんかない。俺達はこれから、ずっと一緒に居るんだから。 そう軽く思っていた、いや、思おうとしていたこの時の自分は余りに浅慮だった。 疑心暗鬼という名の墨汁(すみ)は、ポタポタと次々に落ちて、真祝を真っ黒にしようとしていたのに。
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