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言おうか言うまいか躊躇している間に、二海人が自分を置いて立ち上がってしまう。
「布団、1つしかないだろ? まほはいつも通りに海音と寝て。俺はリビングで寝るから 」
「ちょっ、二海……?! 」
「コラ、しぃっ。海音が起きちゃうぞ? 」
微笑みながらそう言うと、腰を屈めて真祝のおでこにキスをした。
どくんと鼓動が大きな音を立てる。
「じゃあな、おやすみ 」
どこまでもイケメンな男は、にっこりと爽やかな笑みを残して部屋を出ていく。
襖が閉められて、部屋が月明かりだけになった。
真っ赤になりながら、キスされたおでこと口唇をそれぞれの手で押さえていた真祝は、その場に置いていかれた気がした。
「ばか、二海人 」
そのままポテンと、すやすやと眠る海音の横に横たわる。そこにはまだ二海人の温もりが残っていて、真祝の胸はきゅうっと締め付けられた。
今日の今日だし、その気にならなかっただけだよね? 疲れてるだけだよね?
思い過ごしならいい。
ポタリと一滴落ちた墨汁が、透明な水をじわりと濁らせていく。
結婚しようと言ってくれた、それが本当なら時間は沢山あるんだから。焦る必要なんかない。俺達はこれから、ずっと一緒に居るんだから。
そう軽く思っていた、いや、思おうとしていたこの時の自分は余りに浅慮だった。
疑心暗鬼という名の墨汁は、ポタポタと次々に落ちて、真祝を真っ黒にしようとしていたのに。
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