小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

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まだそこまで目立たないけれど、思わず腹を庇った所作に、「まさか、君…… 」と女の人が見詰めてくる。返事の出来ない真祝がコクコクと頷けば、「この年の瀬も迫る寒空に、こんな薄着で何考えてるの! 」と怒鳴られた。そして、「うちの店がそこにあるから、一緒に来なさい!」と、フラフラとする真祝を全身で支えながら、半ば強引に、引っ張られる様にその店へと連れて行かれた。 その店が『ブルー サンセット カフェ』であり、オーナーであるみすずとの出逢いだった。 「今度は猫じゃなくて、人間の男の子を拾って来たの? 」 柔らかい照明の光に包まれた、暖かい店内で、みすずに言われて持ってきた紅茶を真祝の前に置きながら、「飲みなよ、あったまるよ 」とみすずの夫でこの店の店長である三崎が言った。 「男の子だけど……、君、Ωだよね? 」 テーブルを挟んで、向かいに座るみすずがそう聞いてきた。わざわざ好き好んで明かすことでも無いけれど、この人には自分が身籠っていることは既にバレている。 「はい 」と認めたら、みすずがキッと真祝を睨んだ。 「お腹に、赤ちゃんいるよね? 」 「……はい 」 すると、立ち上がったみすずが、ポカッと真祝の頭をチョップした。 「痛……っ!! 」 「痛いじゃないわよ! 」 今度はポカポカッと、二度叩かれた。 「な、何するんですか?! 」「おい! 止めろ! 」 まだ叩いてこようとするみすずの手を、三崎が掴む。 「自分1人の命じゃないのに、捨てる気だったのっ?! 」 「へ? 」 想像もしていなかったことを言われて、思わず変な声が出た。 「どんな理由があろうと、子どもの命まで奪うのは許せない! 」 「君っ、死のうとしてたの?! 」 涙を浮かべながら叫ぶみすずと、みすずの発言を信じて斜め上の質問をしてくる三崎に、真祝は慌てて首を振る。 「勘違いです! そんなことしてません! 」
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