小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

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海音の為にも一刻も早く籍を入れようと言われて、式は後にすると云うことで取り敢えず手続きはした。法的に自分は、正真正銘、『嵐柴 二海人』の配偶者にはなったけれど、実際には違うものだと真祝は思っている。 だって、キスはくれても、二海人は決して抱いてはくれない。 可愛いと言ってくれても、愛してるとは言ってくれない。 すやすやと健やかな寝息を立てる海音の髪をそっと撫でる。すっと上げた視線、真っ白な壁に掛かる時計の数字が次の日に変わるのを見て、真祝は小さな溜め息を落とす。 再会して新居だと連れて来られた、二海人が所有しているものだと言う都心にある駅近の4LDKのマンション。疑ってしまえば、それにも疑念を抱く。結婚を決めて1日や2日で、こんなものを直ぐ用意出来るものだろうか? 他の誰かと住むつもりで購入していたのでは無いだろうか? このご時世に連日の遅過ぎる帰りと、誰の為に用意したのか分からない物件。 そしてまた、同じことを思うのだ。 同情だって、友情だって、なんだっていいんだ、二海人が側に居てくれるんなら。 「ごめんな、海音。海音が欲しがってる弟か妹は無理みたいだ 」 いっしょに居る筈なのに寂しくて、真祝はみすず達の顔が見たいと思った。
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