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「やっば、足なっが! 」
入店ったカフェのチェーン店、みすずは真っ先に耳に入った感嘆の声を聞いて足を止めた。
「ウソ……。身長、高っ。足だけでアンタの身長位あるんじゃん? 」
「は? 幾らアタシがホビットだからってそこまでは 」
入り口付近の2人席、テーブルを挟んで若い女の子達が顔を寄せて内緒話をしている。2人の視線を追うと、見たことのある黒髪の男が注文カウンターでこちらに背を向けて立っていた。
白いシャツに、細身の黒いボトム。シンプル過ぎる着こなしは、スタイルの良さを更に際立たせている。本人もそれを分かって選んでいるのだとしたら、それはそれで嫌みだなと思う。
「でもさ、こういうのに限って顔がさ 」
「だよね、早くこっち向かないかな 」
彼女達のワクワクした声音に、みすずは心の中で呟いた。
ーーー残念ながら、期待は裏切らないわよ。
そうこうすると、注文を終えてトレーを持った男がこちらを向いた。
「「……?!! 」」
2人は何か訳の分からない声を発すると、両手を合わせて握り合い、固まったまま、息をするのも忘れて無遠慮に男を見詰めている。
そして、自分達の横を通り過ぎた途端、小さな声で兎に角『ヤバい 』を連呼した。勿論、後ろ姿にも視線は外さないままで。
「ナニアレ、ヤバい。まぢで、あんなのいるん? 」
「オーラ、マジやばっ! やっぱ、αかな? αだよね? 」
「あったり前じゃん! アレがαじゃなくて、何なの? アタシ、あんなαん中のα、初めて見たよ 」
「目ぇ、スッゴい綺麗だったね。普通にしてても、凄い迫力 」
「綺麗だけど、あんな目力のある瞳に見られたら、威力有り過ぎて腰抜けるわ 」
「でも、見た見た? コーヒーと一緒にストロベリーフラペチーノとオレンジジュース頼んでたよ。1人で飲む訳無いし、誰と来てんだろ? 」
「アンタよく見てるね、……って、ちょ、ちょっ、ちょっと! 」
突然、もう片方のコがもう1人の腕をバンバン叩いた。
「痛っ、痛いってば!! ……え、あ 」
もう1人のコも気付いた様だ。男の向かった先、窓側のテーブルに居る人物に。
そこには、可憐で花の様な青年が座っている。トレーを運んで来た男に瓜二つな、サラサラの黒髪の、利発そうで可愛いらしい子どもと一緒に。
「うわ……、美人。奥さんかな? 子どもも居る、めっちゃ可愛い 」
「何言ってんのっ、あの人、男の人だよ 」
「え? あ、嘘! やだ、本当だ 」
淡い髪の色に、白い肌。黒目がちなアーモンド型の瞳を縁取る長い睫毛。女性と見粉う程の美貌。見慣れている筈のみすずでも、溜め息が出る程、綺麗なコだと思う。思わず、口許が緩んだ。
弟か、子どもの様に思っているコへの、他者からの賛美は素直に嬉しい。しかし、続いた言葉にみすずは眉を潜めた。
「男Ωかぁ、アタシらが敵う訳ないね 」
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