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その頬がほんのり染まっているのを見て、アラアラと微笑ましくなる。
「本当に好きなのねぇ 」
「なっ、何がです? 」
図星を突かれて慌てるところが、何ともまた可愛い。
「彼が『旦那さん』になって、嬉しい? 」
ニヤニヤしながら聞けば、「嬉しいとかっ、そういうのじゃ…… 」と真祝が焦った声を出した。それを見て、我慢出来なくなったみすずが笑いだす。
「分っかり易いわねぇ、それじゃあ嬉しいって言ってると同じじゃない 」
「もぅ、揶揄わないでくださいよ 」
「何んにせよ、幸せそうで良かったわ。私もお嫁に出した気分だったから 」
「幸せ…… 」
みすずは何気なく言ったことだったのに、真祝の顔をパタパタと扇ぐ手が止まった。
「真祝くん? 」
「幸せ、なんでしょうね 」
薄く浮かべたほろ苦い笑みに、みすずが顔をしかめる。気付いた真祝はハッとして、いつもの笑顔を作った。そして、隣りに居る海音をぎゅっと抱き締める。
「勿論、幸せですよー。俺、小さい頃からアイツが好きだったんですから。アイツだけだったんですから。アイツと海音と3人で暮らせて幸せじゃない筈が無いじゃないですかー 」
真祝は自分の言っていることが、大根役者の台詞の様に上滑りしている感じがした。それを聞いたみすずが、ハァ……と溜め息を吐く。
「馬鹿ね、本当にそうだったらそんな表情しないもんよ 」
その時、「どうかしたんですか? 」と、真祝にそんな表情をさせている男前が戻ってきた。二海人は、みすずの前に買ってきたコーヒーをトレーごと置くと前屈みになって真祝の顔を覗く。
「顔色、悪い? 」
「だ、大丈夫だよ 」
ぷいっと横を向いた真祝に、「ん? さっきまで、みすずさんと会えるってあんなに喜んでたのにどうした? 」と優しく微笑む。
「大丈夫だってば! 」
距離を取ろうとする真祝に、二海人は「悪い…… 」と言って直ぐに離れた。
二海人の瞳に一瞬で浮かんで消えた、少し淋しそうな色にみすずは気付く。
約束を守れない様なら、直ぐにでも連れ帰ろうと思っていたけど……。
「嵐柴さん、コーヒー頂くわね 」
「あ、どうぞ 」と言いながら、みすずの隣りに二海人が座った。
コーヒーを飲みながら、チェーン店にしては美味しいけれど、やっぱり自分の旦那の淹れてくれたモノの方が何倍も何百倍も美味しいとみすずは改めて思った。
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