小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

12/44

2824人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ
「ちょ……っ、二海人? 」 「……キス、してもいいか? 」 低音の甘やかな声が、鼓膜に響く。 「そんなのっ、言わなくたっ……?! 」 振り向き様、向きを変えられ、そのまま口唇を重ねられる。最後まで言わせて貰えなかった言葉ごと飲み込まれ、初めから舌を探る深い口付けにクラクラと目眩がした。 トンと背中に壁が当たる。擽るみたいに喉元に触れる指先、屈みながら頭上で壁に付く肘。 追い詰めている様で、実の所、決して無理強いはせずに、真祝の逃げる余地を残している。そんな余裕のある態度が、悔しくてならない。 本当は、他の何も何も見えなくなるくらい夢中になって欲しい。見境なく、自分だけを欲しがって欲しい。 俺なんかに、そんな気持ちにはならないんだろうけど。 「離、して…… 」 まだ自分の足で立てるうちに、二海人の胸元を押し返して口付けを(ほど)く。 「嫌だったか? 」 好きな男から与えられる口付けが嫌な訳はない。ただ、自分だけ好きなことが惨めなだけだ。 真祝はふるふると首を横に振った。 「だったら…… 」 再び重ねてこようとする口唇を、真祝は手の平で制止する。 「無理しなくてもいいよ 」 二海人の動きが、ピタリと止まった。
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2824人が本棚に入れています
本棚に追加