小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

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「どういうことだ? 」 鋭くなった声音に、身体がビクッと震えた。そして、直ぐに自分が言ったことに後悔する。 「だって、二海人、無理してんじゃん…… 」 段々と小さくなる語尾。余計なことは黙っていればいいものを、思っていることを隠せない自分の性格が恨めしい。 二海人が真祝の顔を挟む様に、後ろの壁に両手を付く。 落ちる溜め息。項垂れた顔からは、表情は見えない。 「お前、人がどんな気持ちで…… 」 そんな二海人を見て、ズキッと胸の奥が軋んだ。 ……やっぱり、俺と結婚したの、後悔してるんだ。 「ごめん、俺のせいで 」 友達としか思ってないのに、俺が勝手に好きになって、子どもまで作って、責任取らされて。 きっと想いまで欲しがるなんて間違ってる。分かってるんだ、でも。 「いや、まほのせいじゃない。お前にそんなことを言わせる程、俺に余裕が無いってことだろう? 」 バレてたなんて最低だよな……と、二海人が深呼吸に似た大きな溜め息を零す。 はっきりと認める言葉に、真祝は泣きたくなった。 「そんなに、好きなの? 」 「……は?! おまっ?!」 焦ったのか、いきなり二海人がゲホゲホと噎せた。 体を二つ折りにして咳き込む二海人の背中を、びっくりしながら慌てて擦る。 「大丈夫かよ? 」 「悪い…… 」 「でも、そこまで驚くこと? 」 「驚くよ。つか、んなこと聞くか? 普通…… 」 「聞くよ、大事なことだもん 」 端正な横顔がハッとしたような表情に変わって、「大事、か 」と呟いた。 「真祝 」 「な、何? 」 向き直って握られる両手。見詰める、強い眼差しにドキリとする。 けれど続けられた言葉は、真祝を絶望の淵へと落とした。 「好きだ、愛してる 」 ……ホント、最低だ。 次の瞬間、ぱしんっ……と部屋に乾いた音が響いた。
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