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「真、祝……? 」
叩かれた本人は何が起こったのか理解出来ないのか、呆然としてこちらを見ている。
真祝自身も自分のしたことに愕然としていた。二海人の頬を叩いた手の平をじっと見る。じんじんとして痛い。だけど、それ以上に胸が痛くて苦しい。
「も、いい。よく分かった 」
このままここに居たら、泣いてしまいそうだ。真祝は、スルリと二海人の脇を抜けて速足でリビングへと向かう。
「おい……っ?! 」
今直ぐ離れたいのに、追い掛けてくる二海人に廊下の途中で追い付かれて腕を掴まれた。口唇を噛み締めて振り解いても、振り解けない。
「離、せよっ……!! 」
泣きそうなことを知られたくない。しかし、二海人は更に駄目押しをしてくる。
「そんなに嫌なのか? 」
当たり前だっ! 好きで好きで、誰よりも何よりも恋い焦がれている男に他の相手への気持ちを目の前で言われて、嫌じゃない人間が居ると思うのか?!
大部分のどうでもいいことには相手のことを尊重して笑顔で譲るが、自分がこうと決めたことには絶対に何があっても引かないし、譲らない。上手く立ち回るから気付かれないけれど、真っ直ぐ過ぎる性格は二海人の良い所でもあり、悪い所でもある。
自分の考えにブレないという気質は、確かに二海人の長所の1つだ。しかしそれは、反対に言えば我が強いという事で、本人は気付いていないかもしれないが、真祝は二海人が真性の『オレ様キング』だと長い付き合いの中で分かってはいる。分かってはいるが……。
「二海人のばかっ! アホッ! そんなにはっきりと言わなくたっていいじゃんかっ!」
「……っ?! 大事だと言ったのはお前だろうっ! 」
「だからって、俺の気持ち知ってて酷いことしてるとか、思わねぇのかよっ! 」
此処まで言わせるなんてあんまりだ。
「そんなに好きなんだったら、諦めないで、その女の所にさっさと行けばいいんだ 」
思ってもいない台詞が口から零れて、自分でも驚く。しかし、本当に驚いているのは目前に立つ男だった。こちらからでも分かるくらいに瞳を見開いて真祝のことを見ている。
「二海人? 」
「『女』って、なんだ? 」
二海人の言葉を聞いた途端、カッとなって衝動的に右手を振り上げた。けれど、今度はその手を二海人に掴まれる。
「本当に手が早いな。流石に2度は勘弁してくれよ 」
「お前なんか、2度でも足んねぇよっ! 」
もう片方も振り上げるけれど、そちらもあっさりと捕らえられた。圧倒的な力を見せ付けられて、同じ男としても情けなくなる。これじゃあ、ただの駄々っ子と同じだ。
ギリッと戒められる両の手首に、真祝は眉を顰めた。
「どうやら、相互理解に相当の不備があるようだな 」
「何を今更……っ! 」
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