小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

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信じられない言葉に、両耳を塞ぐ手が離れる。 「へ……? 」 好き? 二海人が? 誰を? でも、真剣な表情(かお)と声で訴えてくる二海人が嘘を言っているとは思えない。……というか、怒ってる二海人、恐い筈なのに見惚れてしまうくらいにカッコいい。 ぽわんと目許を染めた真祝を見て、二海人が「……だよな 」と意味の分からないことを言って溜め息を吐いた。 「兎に角、想像以上にお前が盛大な勘違いをしてるってことは理解した。お陰で俺も()らないことで悩んでたことが分かった。まぁ、元はと言えば俺のせいなんだが 」 摘ままれた鼻に、ギュッと目を瞑る。 「あのなぁ、俺の何処にそんな女の影があんだよ? 」 「で、でも、ずっと好きな人がいるってっ 」 そう、確かに二海人はあの時言った。自分より大事だと思う程好きなのに、想いを伝えていない子がいると。 「だから、それがお前 」 「う、嘘だ……っ、だって俺、一応男だしっ 」 「俺が何時(いつ)、『女 』って言った? 」 ……言われてみれば確かに言ってない、気がする。 「だから、居ねぇ女に妬かれても困んだよ 」 真祝は、グッと喉を詰まらせた。 「で、でも、二海人っ、俺のこと『好き 』なんて言ったことないじゃん! 」 「いつも『可愛い』って言ってるじゃないか」 確かに可愛いとは言ってくれる。だけど……っ。 「『可愛い 』と『好き 』は違うっ! 全然違うっ!! 」 「俺は好きでなきゃ、男に『可愛い 』なんて言わねぇよ 」 「そんなの、解んないよっ! 大事なことじゃないかっ! 」 すると、二海人があからさまに嫌そうな顔をした。 「お前がそう言うから、さっき言ったんじゃないか 」 ーーー『好きだ、愛してる 』 二海人がさっき言った言葉を思い出して、ボンッと顔が熱くなった。 「あれ、まさか、俺に言ったの? 」 「逆に聞いてやろうか? お前以外に誰が居るんだ? 」 《オレ様キング》だと思っていた男がここまで言っているというのに、真祝はまだ信じきることが出来ない。 染み付いた不幸体質な考えからか、次の疑問を二海人に投げる。
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