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泣かせたくないってそんなの無理だよ。そんなこと聞いちゃったら、嬉しくて泣かないでなんていられない。
「不安にさせてごめんな……」と蟀谷に口付ける二海人の胸に、トン……と身を預ける。
「拒否反応が出てしんどくなったら、直ぐに言うんだぞ? 」
「言ったら止めんの? 」
鎖骨に鼻先を擦り付けたら、「こら、煽んな。ちゃんと話聞け 」と窘められた。
心配しいな男が可笑しくて、真祝はクスッと笑ってしまう。
「大丈夫だよ、今は発情期じゃないし。俺、出来損ないのΩだから、お前に抱き締められるの幸せだもん 」
「それでも、だ。少しでも辛くなったら…… 」
「あっ! 」
そうだ、1つだけあった。
顔を上げると、二海人が眉間に皺を寄せた。
「どうした? 何か気になるのか? 」
「うん 」
真祝は難しそうな顔をしている男の首にほっそりとした白い腕を回す。
大好きな漆黒の瞳を間近に見て、ドキドキと鼓動が早くなる。
「ねぇ、知ってる? 今まだ朝だよ? 」
内緒話をする様に潜めた声で言ったら、少しだけ二海人の瞳が大きくなった。けれど次の瞬間、飴色の光が差して悪戯っぽく煌めく。
「そんなことじゃあ、止めてやる理由にはならないな 」
「……わ?! ふみ……っ! 」
突然、膝の裏に腕を差し込まれ、フワリと身体が宙に浮いた。所謂、お姫様抱っこをされて反射的にしがみついたら、二海人が声を立てて笑った。
「何笑ってんだよっ、もぅ……っ、んっ 」
ちゅっと触れる口唇が、何度も何度も落ちてくる。
それは段々に深く長くなっていき、真祝はうっとりと長い睫毛を伏せた。
何も言わなくても、行き先はもう知っていたから……。
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