小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

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「そんな、のっ……!?」 「うん、馬鹿だよな。そんなこと有り得なくても、もしかしたらって願っちまう 」 お前の方がよっぽどだと言いたかったのに、重ねられた切ない声に何も言えなくなる。 「俺はもう、お前の発情に気付いてやれないから 」 その言葉の裏に秘められた、発情期を抑えてやれないという想い。 黙っていると、俯いた顎を掬われて上を向かされた。鷲掴みにされた心臓がドクンと大きな音を立てる。 見下ろす甘やかな鋭い美貌は、男としての壮絶な程の色気と威圧感を放っている。 濡れた漆黒の瞳に圧倒されて、言葉を忘れた。 「あ…… 」 コクリと喉が鳴る。 α《アルファ》ではない。だが、この男は間違いなく、支配する種の人間だ。その男が色々な桎梏(しっこく)にがんじがらめとなって、ここまで来ても躊躇っている。そう思ったら、ぶわぁっと溢れてきた気持ちで堪らなくなった。 「……て、よ 」 堪らなく、愛しい。 「え……? 」 「今すぐ、抱け 」 もう、1秒だって待てやしない。心が身体を凌駕する。拒否反応なんて知らない。あったって構わない。 心がこんなにもコイツのことを欲しがってるんだから。 瞠目した二海人が何かを堪える様に、顔を(しか)めた。ハラリと長い前髪が落ちる。 「…… 」 「二海人……? 」 言いたいことがあるみたいなのに、二海人がギリ……と口唇を噛んだ。 無言のまま、覆い被さってくる重み。 節高な長い指が、性急に真祝の身体をまさぐる。 「ふみ……っ 」 ストレートに昂りに触れられ、きつく()り上げられて、ヒュッと息を飲んだ。 思わず腰を捩れば、噛みつくみたいに口付けられる。快感に震える吐息さえ飲み込まれて、呼吸が出来ない。 そのまま速くなる動きに、先端から蜜が糸を引いて垂れていく。滑りのよくなったそれが大きな手に(こす)られ、ぐちゅぐちゅといやらしい水音を立てた。 羞恥に顔を背けようとするけれど、許されず更に口付けが深くなる。 喉奥まで犯されるみたいな口付け、溜まる熱と近付く吐精感。 それしか考えられなくされているのに、それでも入り口に二海人自身を充てがわれると、全身に総毛立つような震えが走った。慄然し、感情とは反対に身体が逃げようとする。
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