小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

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「あ、や……っ、嫌っ 」 あの時程では無いにしても、身体が(つがい)以外の相手を受け入れることを拒否している。 「拒まないでくれ 」 二海人が懇願する声が聞こえた。 強い力でずり上がる身体を引き戻される。押し当てられる圧が強くなり、凶器に似た楔がゆっくりと体内に侵入してくる。 「あ、あ、あ…… 」 身体が強張る。 不快感、恐怖感、怯え……。色々な感情がない混ぜになって声が出ない。だけど、その中でもたった1つだけの確かな不変の感情。 それに気付いたら、ふっと緊張が解けた。 「好き。好きだよ、二海人 」 「……っ?! 」 弛緩した身体はクリームに熱したナイフを入れるように、愛する男の灼熱を受け入れる。 途端走った、身体の奥の甘い疼きにポロポロと涙が溢れた。 「やっぱり辛いのか?」 気遣って、的外れなことを言ってくる男に真祝は首を振る。 「無理してんだろう? 一旦抜くから……?」 「違う、んだ 」 真祝の涙を勘違いして、焦って身体を離そうとするから微笑みながら引き止めた。 「違うよ、二海人 」 「まほ? 」 泣きながら、ふんわりと笑う。 「嬉しい、ちゃんと気持ちいい 」 あの時の切ないだけの繋がりとは別物だった。 「嘘みたい。あの時と違う 」 ズクンと内壁が、二海人を包みながら(いざな)うようにうねる。気付いた二海人が、くっと息を飲んだ。 「まほ、おま……? 」 「ねぇ、動いて。もっと悦くして 」 『全部欲しい、全部頂戴 』と強請(ねだ)れば、「くそっ……、もう知らねぇからなっ!」と二海人が吐き捨てる。 言うなり、狂暴ですらある大きさの二海人自身を奥の奥まで突き立てられて、目の前にチカチカと火花が散った。 「あの時……っ、本当は俺が何を考えていたか分かるか? 」 「分かんな……っ、分かんないっ 」 言葉通り容赦なくガツガツと打ち付けられる欲望に、返事はおろか思考さえ奪われていく。 「どうしたら、アイツの元へお前を帰さずにいられるか、そればかり、考えてた。それが、お前の為に、ならないと、分かっていても……っ 」 血が迸るような叫び。それでも結局は手を離した男の心の葛藤を知り、胸の奥が軋む。けれどそれが真祝の為だったとしても、あの時の苦しさは忘れられない。 自分達はどれだけ遠回りをしてしまったのだろう。 「もう誰にも譲らねぇし、渡さない……」 自己主張するように目一杯拡げられ、脳髄までもトロトロに溶かしそうな快感と共に、否が応にも二海人の形を覚えさせられる。 呟かれた隠さない執着心は、真祝からしたら愛の告白にしか聞こえなかった。 もう何度、()かされただろう。 今迄の時間を埋めるように、食べる飲む以外はずっとセックスしている。1度終えても、また直ぐに欲しくなる。外は既に暗くなってきているというのに、お互いの欲望は果てない。 実際、二海人はまだ真祝の(なか)にいる。
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