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お前ではなく、お前のバックグラウンドのためだと二海人が答えると、「……相変わらず、嫌な人だ 」と言われた。
賢い奴だと嫌味が正確に伝わって助かる。
「褒め言葉をどうも 」
ニヤリと不遜に笑って見せれば、央翔が射殺しそうな視線を向けて来た。ビリビリと空気を震わせる強烈なオーラを隠そうともしない。自分も大人げないが、コイツも大概だ。
だが仕方がない。同じ人間を欲した者同士、お互いに相手を目の前にすると、ただの二匹のオスになってしまうのだから。
「ちょ、ちょっと、大丈夫なのかよ 」
山本が2人のただならぬ空気を感じて、二海人の腕を引いた。
いくらαといえども、生来の王者である久我の発する覇気に圧倒されてしまったのだろう。その顔は青ざめている。
「嵐柴、お前、平気なのか? 」
「何がだ? 」
平然としている二海人に、山本が身震いをしたのが分かった。そんな山本に二海人は苦笑する。
俺の心の全てを掴んでいるのは、今も昔もたった1人だけだ。それ以外に恐いものなんざ何もねぇんだよ。
「ね、パパ 」
「あぁ、海音 」
「れもんの、は? 」
何事もないかの様にキョトンとした目で自分を見上げてくる海音に、おや?と思う。
普通の子どもだったら、怯えてしまうだろうに。
「……その子があの時の? 」
固い声が聞こえた。
「そうだよ、可愛いだろう? 」
二海人は海音を抱き上げ、柔らかくすべすべの頬に自分の頬をふにっとくっ付ける。
「見ろよ、俺にそっくりだ 」
「……えぇ、確かに 」
黒い髪、黒い瞳は勿論、目鼻立ちも全部この男のものだ。だけど……。
「優しい面差しは、あの人のものですね 」
「そうだな 」
その言葉には、二海人も同意した。
「それにしても、貴方も残酷なことをしますね 」
央翔が小さな息を落とす。
「何、言ってる。君が連れて来いと言ったんだろう? 」
「それはそうですが。……そんなに俺のことが許せないですか? 」
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