小鳥の憂慮、或いは月の贖罪と錯誤。そして、あらゆる劣情。

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「そ…… 」 話そうとして、自分達に周りの視線が集中していることに気付く。チッ……と無意識に舌打ちがでた。 当然だ、ここは久我の自宅でホスト側な上、コイツ目当てのゲストもいるはずだった。 二海人が山本の方をチラリと見ると、山本がビクッと体を揺らす。 「山本、海音を頼めるか? 」 「あ、あぁ……? 」 山本が何度も首を縦に振る。二海人は海音の方に向き直ると、優しく微笑みながらその髪を撫でた。 「パパな、このお兄さんと話があるんだ。だから、その間にレモンタルトを山本のお兄さんと一緒に探しに行ってくれるか? 」 言い聞かせる様に言うと、海音は澄んだ瞳で二海人を見詰め返しコックリと頷く。 「はい」 「いい子だな 」 そっと下に下ろしてやると、きゅっと二海人の袖口を握った後、タタッと山本に駆け寄って行った。 「パパのも、もってくる」 「楽しみにしてるよ 」 ヒラヒラと振った手に、海音が小さな手を振り返す。 「山本、宜しくな 」 「お、おぅ、まかせとけ 」 2人の姿を見送ると、振っていた手を下ろす。自然に表情は元に戻っていた。 ウェイターのトレーから黄金色に弾けるシャンパンを2つ貰い、1つを央翔へ差し出す。 「……あっちで話そうぜ 」 顎をしゃくれば、央翔もシャンパンを受け取って頷いた。 「許せないとか、そういうこっちゃねぇんだよ 」 トン……と、壁に背中を預けて二海人は言った。 広間の隅、大きな柱はきっと自分達の姿を隠してくれる。 「それに、許せないのはそっちの方だろう? 」
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