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二海人が廊下へ出ると、そこには央翔が壁に凭れながら待っていた。
「……妹はどんな状態ですか? 」
「抑制剤を飲ませて、今は横になってる。心配はいらないと思うが、今夜は相当キツいだろうな 」
安心したのか、央翔が大きく息を吐いた。
「ありがとうございます。貴方が居なければ、今頃どうなっていたか…… 」
「まぁ、たまにはβも役に立つだろう? 」
ニヤリと笑う二海人に、央翔が首を振る。
「やめてください、今は冗談を言える状態じゃない 」
妹の安全を知り緊張が解けたのか、口元を押さえてその場にズルズルと央翔が座り込む。二海人はその背中を労い、ポンポンと叩いた。
「君もよくやったよ 」
「どうしてこんなことになったのか……。こんなことになるなら、やはり、どんなに本人が嫌がっていても、見合いでも何でもさせて相手を見付けてやるべきだったんだ 」
「へぇ、妹さん、嫌がってたんだ。何で? 」
二海人に抱かれ、とんとんと背中をあやされながら、海音はずっと今出てきた扉を凝視している。その手には、さっきまで京香が髪に着けていた淡いブルーのリボンが握られていた。
部屋の中では、きっと京香も海音が渡したハンカチを抱き締めていることだろう。
「高校の時に出逢った名前も知らない男を、自分の運命の番だとずっと思い込んでるんです。ソイツでなければ、番にはならない、結婚はしないと言って。その男が姿を消したのなら違ったのだと幾ら言っても聞かない。
運命の番はお互いが求め合うものだ。相手に求められないならば、それは『運命』じゃない 」
「ふぅん 」
素知らぬ顔で返事をする二海人に、央翔が苛立たし気に問う。
「違いますか? 」
「さてね、俺にはよく分からない。でも、そうだな、それなら…… 」
運命の番が互いに、相手を欲し、全てを求め合う存在と言うならば……。
「お前ら、本当に『運命』だったのか? 」
「……っ!? 」
今回の京香の発情がただの暴走ではないと、そのうちこの男にも分かる。
もしかしたら俺達3人が、その『運命』とやらに、彼らの布石として動かされていたのかも知れないとその時気付くだろう。
俺達がしてきた事の何が欠けても、彼らが運命の番として出逢えることはなかったのだから。
「……貴方は、本当に嫌な人ですね 」
「だから、それは褒め言葉だよ 」
気の毒な同志に憐れみの微笑みを残して、二海人はその場を後にした。
何しろ、運命の神ってヤツには借りがある。
それに、石の1つでもそう悪くないと、愛しい息子を抱きながらそう思った。
家で自分達を待つ真祝の、花の綻ぶ様な笑顔を思い浮かべながら。
『おわり』
2022.1.30
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