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サラリと優しく髪に触られる感覚に、目が覚めた。
眠い目を擦って開くと、ベッドに片足を乗り上げる様に座った二海人が、こちらを見て微笑んでいる。
「ん、お帰り 」
「ただいま 」
「海音は? 」
伸ばした手を取られ、手の甲に口付けられた。
「帰り道で疲れて寝ちゃったよ。ソファーに寝かせてきた。……それにしても、派手にやったね 」
二海人の視線を追うと、部屋の中がしっちゃかめっちゃかになっているのが見えた。
「そうだ、俺…… 」
思い出した。クローゼットから、タンスから、二海人の衣類やら雑貨やらを欲しいままに取り出したことを。
そして、それらは全部、ベッドに横たわる自分の周りに置かれている。
「……? ごめん、俺、何やって」
自分でも何でこんなことをしたのかよく分からない。呆れられると思い、朦朧としながらも謝れば、二海人がよしよしと頭を撫でてくれた。
「どうして謝るんだよ。上手く巣作り出来たな 」
「巣作り……? これが? 」
真祝は驚いて、自分の周りを見回す。確かに今迄も二海人のタオルや服を抱き締めて寝ることはあった。二海人の匂いは酷く落ち着く。妊娠してからそれが顕著に出ている気はしていたけれど。
「まさか、巣まで作ってくれるなんて、思ってもみなかった 」
そう言って嬉しそうに笑う表情に、ぎゅんと胸がときめく。
もしかして、今回悪阻が軽い1番の理由って、二海人が側にいてくれるから?
二海人の匂いに存在を感じて、包む様に安心させてくれてるから?
でも、それって……。
「ねぇ、二海人。お前、本当にβ? 」
「何を今更 」
「実はαなんじゃないですか? 」
「正真正銘のβですが? 」
二海人が肩を竦める。だけど、Ωに巣作りさせるβなんて聞いたことない。
「……本当にそうでしょうか? 」
「そうでしょうよ 」
そうだよな、俺は他に番がいて、項だって噛まれてんだし。
……あぁ、頭が混乱してきた。
「だがまぁ、俺はβだけど 」
二海人が、真祝のおでこを人差し指で弾く。
「……てっ 」
「こうやって結婚して、一緒に暮らして、子どもまで授かってんだから、お前の番は他の誰でもない、俺だって思ってるよ 」
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