月夜の小鳥は哀切な嘘をつく。1

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けれど、女の子は頷かない。 不安そうな瞳が、真祝を信じていいのか躊躇っているのが分かった。 気持ちは理解出来るが、そんな心配は全然いらないのに。 真祝は苦笑しながら、女の子にだけ聞こえるように耳許で囁く。 「怖がらなくてもいいよ。 俺も君と “同じ” だから 」 それを聞いた女の子の目が驚いたように見開かれた。 突然、急ブレーキを掛けた電車がガタン突然揺れる。 「……っ! 」 人波に押されながらも、真祝はついた手に力を入れて、女の子との間に空間を作る。 自分が怯えさせては意味がないから。 そう、同じだからよく分かるのだ。 こういう時、Ωがどんなに恐怖心に駆られているか。 こんな混雑した逃げ場の無い電車の中で、フェロモンにあてられたαやβに犯されようが、輪姦されようが、それは発情期に出歩いたΩのせいになる。 無理矢理うなじを噛まれて番にされても、加害者は決して罪には問われない。αには事故で済むが、Ωには一生のことなのに。 自分の身を守るのは、自分しかいない。 それが分かっているからこそ、この子には周りに居る人全てが敵に見えている筈だ。 「おな、じ? 」 青い小さな顔が、不思議なものを見るように真祝を見つめる。
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