月夜の小鳥は哀切な嘘をつく。1

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駅員室に駆け込むと、真祝は先ず駅員から鍵を借りた。 部屋は内側から鍵が掛かるが、鍵を使えば外からでも開けることが出来る。 嫌な顔をされながらも、少しでも危険な要素は残したくなかった。 女の子と一緒に部屋に入ろうとする真祝を、疑われたと思った駅員は意趣返しか必要以上に制止しようとしてきたが、無言で身分証明書を見せると納得したように黙る。けれど、代わりに見下すような笑みをうっすらと浮かべたのを真祝は見逃さなかった。 「やっぱり、鍵をこっちに渡して貰って正解だったな 」 気付けば、思ったよりも冷たく尖った声が出ていた。 睨まれて、慌てたように駅員が何かを言ってこようとするのが見えたが、真祝は構わず背中でドアを閉める。 あれが世間一般の反応では無いにしても、ああいう風に思っている輩は沢山いる。 自分は発情期の周期が2、3ヶ月に1回だからまだ仕事に就けたけれど、発情期が月1やそれ以上ともなるとまともに働くことも出来ないのは容易に想像がつく。頼る者が居ないΩは、生活や金のために風俗の世界に入る人もいるというし、最悪、好きでもないパートナーと番になったりする人もいるという。 金持ちのαの中では、沢山のΩと番うことがステイタスなのだという話も聞いたことがある。 ……胸糞の悪い話だ。 真祝は、女の子を簡易ベッドに座らせると自分の鞄の奥を探った。 確か、この辺に……。 「貴方もΩって、本当ですか? 」 今まで黙っていた女の子に不躾に聞かれて、顔を上げた真祝は、その時初めて女の子の顔をきちんと見た。
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