由美子

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当日の朝だった。 母に言われ朝ご飯の用意をしていると中倉の叔父さんが息を切らせて駆け込んで来た。 店に入るなり土間に頭を擦り付けんばかりに父と姉に土下座をする。 驚いて差し出した父の手を振り解くようにしながら謝りだした。 「すまない正さん、向こうの息子が見初めたって言うのは由希ちゃんじゃなくて、由美ちゃんの方だったんだ。 相手が30を過ぎてるし、由美ちゃんじゃまだ子供みたいだからよ、てっきり由希ちゃんだとばかり思っちまって、俺の早とちりで・・ 本当にすまない」 姉も私も、そして両親も驚いて言葉が出ない。 腹も立つだろうが今日のところは自分の顔を立ててくれと泣付く中倉の叔父さんを見かね、父が私に見合いの席に付くようにと言った。 考える暇もなく姉の為に用意されていた振袖に着替える。 当然、姉は私とは口も訊かずに自分の部屋に閉じ籠った。 「お母さん、お姉ちゃん、大丈夫かな・・」 泣きながら部屋に入った姉を思い出し母の顔を見る。 「心配しても仕方ないわ、どうせお断りするんだし、今日の見合いだけの約束だもの貴女も迷惑だろうけど我慢してね」 タクシーの中で母にそう言われたが、姉の事が頭から離れなかった。 見合いは隣町に在る老舗の料亭で行われた。 高校に入学したばかりの私には無縁の場所だ。 中居さんに案内され両親と中倉の叔父さんと座敷に入った。 「本日はお日柄も良く・・」 決まり文句を言う中倉の叔父さんを横目に、私はまだ姉を思っていた。 母が私の手を軽く押さえた。 気付くと二人で散歩でもと言う事になっていたらしい。 彼に誘われて縁側から庭に出た。 「如何したの? 今日は元気が無いね」 そう言って顔を覗く。 顔があまりに近すぎて言葉が出ない私を、彼は笑いながら見つめる。 「あの・・どうしてですか」 「えっなに?」 「どうして私なんですか? おねえちゃ・・姉でも・・姉の方が・・」 私の言葉に、彼は真っ直ぐに私を見た。 「僕ね、身体が弱くて高校も行けなかったんだ。 君を見た時ね、健康そうで羨ましくて・・ 家に帰ってからも君を思い出すと何だか自分も元気になる気がして。 日にちが過ぎるごとに君の顔がちらついて・・ ああ、あんな娘が傍にいてくれたら・・ そう思うようになってね」 私は驚いて彼を見返した。
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