由美子

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「でも私まだ学校もあるし、結婚なんて考えた事ないし・・」 彼は驚いて私を見た。 どうやら姉と私が間違われた事は知らずに来たらしかった。 中倉の叔父さんからは此方も乗り気だからと聞かされていたらしい。 まあ姉は彼の事を気に入っていたのは本当だし、私だと気付いたのも今日の朝なのだから仕方ないのだが・・ 気まずいまま暫く庭を歩いた。 彼は時々立ち止まって私を見る。 その日はそのまま何も言わずに彼と別れた。 何日かして突然彼が学校帰りの私に逢いに来た。 中倉の叔父さんから姉と私を間違えた事を聞いたと言った。 そして、其れを理由に私の両親が断りを入れて来たと寂しそうに言った。 「本当にだめかな? 確かに僕に嫁いでも君が幸せになれる保障なんてない・・それどころか苦労ばかりさせるのかも知れない。 でも諦められないんだ。 もう一度だけでいい、考えてくれないか・・」 そう言うと私を見つめる。 彼に見つめられ、私の胸がドキドキと音を発てた。 私は父に似たのだろうか・・ 彼に乞われると嫌だとは言えなくなった。 結局彼とその母が何度も家を訪ね、私と両親を説得する容で私は彼の許に嫁ぎ、彼とその母、彼の弟と一緒に暮らす事になった。 彼は優しくて頭の良い人だった。 学校には通えなかったけれど、通信制の高校や大学を卒業していて私の宿題も手伝ってくれた。 でもそれも長くは続かなかった。 結婚して半年が過ぎた頃、彼が癌だと診断されたからだ。 初めは学校にも行かせてくれる約束だったが、彼が寝込む事が多くなると看病の為に行けなくなった。 彼の母も最初は優しかったものの、直に世の中の姑と同じく息子を嫁に取られまいと嫁いびりを始めた。 家の中からは一歩も出られずに、家事と夫の世話で一日が過ぎて行った。 「由美子さん、ちょっと」 夫の身体を拭いていると姑が私を呼ぶ。 「はあい、直ぐ行きます」 そう答え立ち上がろうとすると夫が声をかける。 「由美ちゃん、僕が呼んだら新聞紙とひびの入った茶碗にお茶を入れて来て」 「ひび?」 「台所の食器棚の下に有るはずだ」 夫は笑いながらそう言うと私の背中を軽く押した。 急いで台所に入ると姑が私を睨む。 さっき洗った茶碗に汚れが残っていると責めだした。 私は何も言えずにうなだれて姑の声を聞いていた。 「由美子、いないのか? 由美子、お茶」 大きな声で夫が私を呼んだ。
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