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「ありがとう。
本当に迎えに来てよね」
男性は笑いながら女性を見る。
「ああ、約束する・・
頑張れよ」
そう言うと僕に向き直る。
「ごめん、僕に付いて来て。でも何処で逸れたんだか・・
全く、ボスも何でも僕達に任せたままで」
そう言いながらさっきまで長い列が進んだ方向とは逆に歩き出した。
「あの・・僕は・・」
「いいから、早く」
戸惑う僕を振り返りもせずに男性はどんどん先に進む。
突き当たりのドアを開けるとやっと僕を振り返った。
「早く、時間が無い」
彼に急かされるまま急いでドアの外に出た。
「ふう・・間に合った」
見ると、今まで其処に有った白いビルが一瞬で消える。
「もう少しで飲まれる処だった」
そう言うと僕を睨んだ。
「君は本当世話が焼けるね。
迷子にはなるわ、時間が無いのにもたもたと・・
ボスは何で君みたいなのをあいつの後任に選んだやら」
「あの、僕は・・」
「なんだよ、さっきから、僕、僕って、何が聞きたいんだ?
どうせ何を聞いたところでIDの設定前だろ、覚えてもいられないのに聞いて如何する?
それより早く此処を離れないと、お前とこんな所で無に食われるなんてごめんだからな」
男性はそう言うと僕の腕を捕まえる。
僕を引き摺るように歩き出した。
草原の道を山の方に向かって歩く。
綺麗な花の咲いている木の下まで来ると腕の時計を確かめた。
「あ~あ、間に合わなかったか・・」
彼は大きくため息を吐いて僕を見た。
「明後日には仕事で此処を離れると言うのに今夜は君と野宿って、ついてないな。
こんな事ならあの小瓶、あの娘にやるんじゃなかったかな」
そう言うと周りを見回した。
「朝まで4時間か・・
あっそうだ、あそこなら馬車も通る」
また僕の腕を捕まえる。
「さっさと歩いてくれよ、暗くなる前に着きたいからな」
少し面倒くさそうに僕を見る。
さっきよりも足早に山道に向かって歩き出した。
暫く歩くと小さな教会が見えた。
誰も居ないのか朽ちかけていた。
彼はその教会の扉を開くと中に入る。
「早く来いよ。
直に暗くなるぞ」
僕は彼に言われるまま中に入った。
其処は礼拝堂だけの狭い建物だった。
西陽がステンドグラス越しに柔らかい光りを床に落とす。
余りの美しさに見惚れていると彼が僕を呼んだ。
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