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「君さ、前の事は何も覚えてないのか?」
不思議そうに僕を覗く。
「何も・・って」
「そうか・・
でもその方がいい。
なまじっか覚えていると僕達の仕事は辛い・・
仕事が済むと毎回記憶を消すやつもいる位だからな」
少しずつ辺りが暗くなる。
「来いよ、立っていても時間が早く過ぎる訳じゃない。
椅子なら沢山在る」
彼は蜀台に残った蝋燭に灯りを燈した。
「昔は此処が導きの場所だったらしい・・
今はあの白いビルだけどね。
人口が増えてこんな小さな場所じゃ対応が仕切れない。
まあ、人が思い浮かべる此処のイメージだって時代に合わせて変わるんだ。
仕方ないのかも知れないね。
でも、僕ならあんな無機質な所より此処の方が好きだけどな」
そう言って長椅子に横になった。
窓の外に大きな月が浮かんでいた。
月の真下に奇妙な形の木が見えた。
良く見ると二本の木が絡み合うようにして立っていた。
「何を見てるんだ?」
眠っていると思っていた彼が直ぐ傍で僕の視線を辿る。
「ああ、あの木か・・
あれは君の前任のゲイトだよ。
今までの功績とターゲットの願いで、ああして樹木としてこの教会を守っているのさ」
「ゲイト?」
「君や僕の名だよ。
人によっては死神と呼ぶ者も居るが」
「死神・・」
「ああ、僕達のように生まれなかった者達がその任に付く事が多い。
死神と言えば怖ろしい気がするだろうが、僕達ゲイトの本当の意味はその名の通り門番だ・・
寿命が尽きたのに未練で自分を現世に留めている者を迎えに行くのが仕事だ。
だが、ただ迎えに行くんじゃない。
ターゲットの未練を断ち切って心残りを解消してやるんだ。
だから僕たちには特別な力が与えられている」
「特別な・・力」
「そうだ・・それを使ってターゲットの望みを叶える事もある。
そして、いや・・これ以上は僕が話すより明日君が自分で悟る方が良いだろう。
どうせIDを設定すればその時に解る」
僕はもう一度窓の外の木を見た。
種類の違う木がまるで恋人達が抱き合うようかのようにに立っている。
風が吹くとカサカサと音を発て枝の葉が擦れ合う。
まるで、何か楽しい話しでもしているように聞こえた。
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