由美子

2/11
前へ
/74ページ
次へ
身体の痛みに目が覚めた。 ベットの中で少しずつ手足を伸ばす。 (身体が痛くて起きるなんて・・私も歳かしらね) 手を伸ばして目覚まし時計を見る。 夜中の3時だった。 携帯の着信を見る。 昨日は私の誕生日だった。 (男の子なんてつまらないわよね、母親が誕生日でもメールひとつ送ってこないんだから・・) 19歳で産んだ一人息子は結婚して東京にいる。 先月まで10年勤めた職場は会社の経営難で整理され、私は早期退職を選んだ。 18歳で夫と死別した後、私は彼の実家から離縁を強要され家から追い出された。 名目は、私の年令が若い為・・ 「今なら違う人とやり直せる」と言うのが向こうの言い分だった。 でも本当は、子供すらいない若い嫁が居たのでは、家を継ぐ次男の結婚の邪魔になる・・ そう言う事だ。 迎えに来た母は不満げに私を見る。 「結婚の時はあんなに下手にでたくせに、息子が亡くなったら手のひらを返すように追い出すなんて」 そう言ってため息を吐いた。 「お母さん、私、このまま旅行に行っちゃダメ?」 夫の実家からの帰り私がそう切り出すと母は少しだけホッとした顔をした。 「そりゃあ構わないけど・・ 旅行って何処へ行くつもりなの?まさかあんた、旦那さんの後を追う気じゃないでしょうね」 私は笑いながら母を見つめた。 「心配しないで、3年もあの家から出た事がないのよ。 旦那様の看病と家の事で一日が終った3年だったわ」 そう言って母の顔を見る。 だが本当は、私がこのまま実家に帰ると母が困るのだと知っていたからだった。 この三年の間に父が亡くなり、家は姉が入り婿を取って継いでいた。 姉の夫になった人は京都の老舗呉服店の次男で姉とは見合いで結婚した。 大層な持参金を持って来たようで、店も家も私がいた頃とは別の場所のようになっていた。 当然出戻った娘などに居場所は無い・・ それに亡くなった主人の事で姉と私には確執もあった。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加