由美子

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私の結婚はその経緯事態が複雑なものだった。 あれは私が高校に入った最初の夏の暑い日の事だった。 私の実家は小さな呉服店を生業に、親子4人がやっと食べて行けるだけの生活をしていた。 父の正和は絵に書いたようなお人好しで、人に頼まれると嫌とは言えない性格の為、幾ら母が頑張っても借金は減る処か増える一方だったらしい。 そのくせ娘達には甘い父は私達姉妹を私立の高校に通わせてくれていた。 あの日は父と母が隣町の親戚の結婚式に祝いに行って留守をしていた。 店は初め私より2歳年上の姉由希子が店番を頼まれたのだが、姉は友達と出掛けるからと私に押しつけて家を出ようとしていた。 「嫌よ、お姉ちゃんたらまた私に店番を押しつける。 今日は絶対無理宿題の習字が上手く書けて無いんだからね」 「何言ってるの、あんたの習字なんて何年練習したって上手くなんてならないわよ。 そんな無駄な事してる位ならお金持ちの男の人でも見つけなさいよ。 だいたいあんた、うちの家計が火の車って知ってるの? 本当ならあんなお金のかかる学校なんて無理なんだから」 私は姉の言葉に驚いて立ち止まった。 「うちって、そんなにお金ないの?」 「当たり前じゃない、お父さんたらまた人の保証人になって逃げられたのよ。 まったく、こんなんじゃろくな家に嫁ぐ事も出来やしない」 初めて聞く話だった。 「とにかく、私は少しでも良い男の人を見つけるわ。 お父さんみたいな人はダメ、だから今日はあんたが店番をしなさい」 「なんでそうなるのよ。 だいたいお姉ちゃんが先に」 その時だった、店先から女の人の声が聞こえた。 「ごめんください。 誰かいませんか?」 「お姉ちゃん、お客よ」 「もう、あんたが出なさいよ」 「無理よ、墨だらけなのよ、商品が汚れちゃうじゃない」 姉は渋々店に出て行った。 私は自分の部屋に戻ると書きかけの半紙を睨む。 (もう、何度書いても上手く書けない。 お姉ちゃんの言うとおり才能がないのかな) そう呟いて自分の書いた字を眺めた。 暫くすると姉が猫なで声で私を呼んだ。 店と母屋を仕切る暖簾から姉が顔を覗かせる。 「由美ちゃん、お客様にお茶をお出しして」 「えっ、お茶って・・」 姉は私の口を押さえる。 「しっ、黙って出して。 その代わり店番は私がやるから」 そう言うと慌てて鏡を覗く。 いつの間に着替えたのか外出用の洋服を着ていた。
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