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第6章「ふたたびアルジェリアへ」 #2
信じられないほどつらかった。楽しい思い出はほとんどなく、嫌なことばかりあった気がする。それなのにこの空気の匂いと景色は、それを忘れさせてくれた。
なだらかな丘陵が続く。
いたる所オレンジ畑やオリーブ畑、葡萄などの果樹園が広がっている。空の青さと地中海の紺碧。それと緑が混ざり合い、北アフリカ独特の美しい光景を描いている。それは同じ地中海に面した南仏とは、まったく違っていた。
1年ぶりのアルジェリア。
しかもこんな一番いい季節に帰って来られるなんて。ぼくはよっぽど運がいい。いつしかぼくは、戻れたことにうれしさを感じていた。
ドライブの間、彼といろいろな会話をした。
ぼくは今までの海外経験を、面白おかしくしゃべった。その結果、驚くべきことがわかった。
ムッシュ・フォールはアルジェリアどころか、外国が初めてだった。
彼の優しさは経験からくる余裕ではなく、単に人が好いだけらしい。よく観察すると育ちの良さが、ちょっとしたしぐさや身のこなしに現れている。
真のお坊ちゃまとは、こういう人をいうようだ。
最初は緊張から、ぼくは相手が数段上に見えた。しかしお坊ちゃまだとわかって、だんだん余裕が出てきた。お坊ちゃま同士、気持ちはよくわかる。
ほら、ぼくのしぐさにも、育ちの良さが現れているでしょ?
あっ、また首をかしげている読者がいる!
そんな人は放っておいて、話を進めよう。
どうやら彼は、今回の仕事に不安を感じているらしい。そこでぼくは、この国での経験談を話した。
「今回のような仕事は、1年前やっていたのとまさに同じだ。ほとんど心配していない」
彼はそれを聞いて、安心してくれたようだ。
最後の丘を越えると、眼前に地中海の碧い水平線が飛び込んできた。
海岸に沿って、工場地帯の煙突が立ち並んでいる。フレアースタックと呼ばれる、炎が赤々と燃える100メートルを超す鉄塔も。そんな海沿いのコンビナートの外れに、校舎はあった。
トレーニングセンターと呼ばれている。
30余りの教室が、工場の建設現場から数キロメートル離れた所に建っていた。
教室といえば、今までの自分には勉強する場所だった。
しかしその教室は、ぼくにとって学び舎ではない。
自分の職場となる。
初めての感覚で、ちょっと不思議な気がした。
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