第7章「坊ちゃん先生の初授業」

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第7章「坊ちゃん先生の初授業」

新たなアルジェリア生活が始まった。  独身用住宅に入ったのが水曜日の午後。翌日の木曜・金曜の2日間は休みとなっている。    ここイスラム教の国では、金曜が本来の休日。週休2日制のアルジェリアでは、木曜と金曜が休みになる。 その1「初出勤」    そして土曜日。  いよいよぼくの初授業だ。2日間の余裕があったとはいえ、授業の準備はほとんどできなかった。  ぼくは教育学部出身でないし、教育実習を受けたこともない。そもそもの基本ができてない。  人生で初めて教師として教壇に立つ。  しかもここは異国アルジェリア。  ひとつ心配が浮かぶと、ウィルスが増殖するように頭の中を支配する。これじゃ金曜の夜は眠れない。  こういうときこそ母の言葉を思い出したいが、何も思い出せない。  うつらうつらするうちに世が明けた。  とにかく起床。朝食はあまりのどを通らない。車でトレーニングセンターに出勤、職員室に着いた。他の講師は足取り軽く、次々と教室に向かう。 「自分もやがてあんな風になれるんだろうか」  ぼくは足取り重く階段を上り、教室の前まで来た。  ドアノブに手をかけたが動かせない。足もすくんで動かない。  そのとき、母のことばを思い出した。 「深呼吸は、気分転換だけでなく運気も転換する」   ぼくは肩の力を抜いた。 「すーっ」 大きく息を吸い込んだ。 「げほげほげほ」 大きく咳き込んでしまった。  学校もまた、空港と同じく民族独特の匂いがする。  その上に若い男の汗の酸っぱい匂いが混ざっている。 さらにほこりっぽくもある。  ここまで追い込まれると、逆に九州男児度が急上昇した。 「負けるわけにはいかんばい。心の阿蘇山は大噴火たい!」 勢いよくドアを開けた。 その2「初授業」    教室を見渡すと、日本の教室とはまるで違っていた。  日本のような制服は、もちろんない。ターバンを巻く者、髪の毛を伸ばし放題にしている者、スキンヘッドまでいる。  ところが全員ヒゲは生やしている。  ヒゲだけ見れば、全員がぼくより年上に見える。  イスラム教ではヒゲがなければ、男性として認められないからだ。しかし顔つきはやはり幼い。いかにも10代の眼をしている。  それより、なんせ準備ができてない。
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