第7章「坊ちゃん先生の初授業」

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授業を先に進めることができない。だがそんなことがばれれば、たちまち生徒になめられてしまう。ここは、ある秘密作戦を実行した。 「きょうは最初なので、今までの復習をしよう」  ぼくは生徒をひとりずつ当てて、教科書を読んでもらうことにした。読み終わるとぼくも読んで、内容を解説する。  何のことはない。日本式授業スタイルをなぞっただけだ。  ま、これなら1時間乗り切れるはず。  まず教壇近くの、比較的大人しそうな生徒を指名する。ところがこれがいけなかった。 「ムッシュ・ナガオ、どうして教科書を読まなければいけないんだ?」  あとで知ったが、アルジェリアでは授業中に教科書を読むことは禁じられているそうだ。  そんなの、フォールもガリッグも忠告してないよ。  のちに経験したフランスの授業では、教科書を読む場面はなかった。教科書は使用せず、教師が用意したテキストや小説、市販の本が教材となっていた。  おそらくアルジェリアは、フランスの影響を受けているんだろう。 その3「検査官」    読む、読まないで生徒ともめていると、突然教室の後ろのドアが開いた。  いかつい男が入ってきた。  そういえば初日、ムッシュ・ガリッグがこういってた。 「突然アルジェリア人の検査官が、教室に見学にくることがある。彼らは生徒から苦情を聞き出す。時には講師を解雇させることもある」  何も最初の授業から、こなくていいだろ!  検査官と生徒が会話している。なぜ教科書を読むのかと訊(き)いているらしいが、すべてアラビア語。ぼくにはまったく理解できない。、  やがて検査官は、納得した表情で教室を出ていった。どうやら『1日目でクビ』だけは逃れられたようだ。   こうしてやっと初授業が終わった。  廊下に出ると、ムッシュ・ガリッグが立っていた。 「検査官がきて驚いたろう? ワシが初めて赴任した時も、彼らは何かにつけて因縁をふっかけてきた。たとえば…」  彼はサービス精神旺盛なのはいいが、話が長い。ここは要約しよう。  つまりこうだ。  フランス人はアルジェリア人から嫌われている。  それは随所に嫌がらせとなって現れる。今回の見学もそうだ。検査官は気難しく、フランス人への不信感が高い。
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