第11章「帰らされた講師たち」 #2

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フランス人が毛嫌いするアルジェリアくんだりまでやってきて 「何という悲劇だ!」 と思っているに違いない。  当時彼は、外国人に対して疑心暗鬼の固まりだった。彼がとなりの誰か(もちろんフランス人)と話していた。内容は、フランスの自慢とアルジェリアの悪口。 「あれがない、これがない」 といった不平不満だ。その時鉛筆を落とした。 「落ちたよ」 とぼくが伝えたが、彼は一瞬聞いていないふりをした。  そしていかにも 「俺はアンタのいうことなんか聞いてないよ」 といったしぐさで、しかしゆっくり下を見た。そこに鉛筆を見つけ、やおら拾い上げると感謝ものべず、また話を続けた。 「お前はブサイク男子高校生を完全無視する、カトリック系の女子高生か!」  ぼくの九州男児度が上昇しかけた。が、以前1000%も使ったので、今回はエネルギー切れ。がまんした。  その後……。  彼は、少しずつ開放的になっていく。  ひと月もすると彼も少し落ち着く。3ヶ月後には生活に慣れたようだ。まんざらでもないと思い始めている。相変わらずグチは出るが、そう悪くなさそうなふんいきが伝わってくる。  半年から1年も過ぎると、あら不思議。  帰国しなければならなくなっても、逆にここにいたくなっている。  彼ほど最初と最後でその性格が劇的に変化した人はいなかった。  結局彼は最後までこの職場に残ることになった。 その10「モーリスとテレーズ夫妻」  このころモーリスもやってきた。  モーリスはフランス人だが、独身で因数分解のできない、あのモーリスとは別人物。  テレーズという※ザイール人の妻を連れている。(※1997年からコンゴ民主共和国)  彼はいつも赤ら顔。  いかにもワインとチーズが好きそうだ。ブルゴーニュ地方の居酒屋から出てきたような、でっぷりとした体形をしている。  テレーズは、大柄で愛嬌のある奥さんだった。  彼らに初め会ったのは、職員室ではない。  ムッシュ・ガリッグ宅の居間で談笑している時だった。  モーリスはよくしゃべる。  この点は、あの独身のモーリスと同じだ。たいくつな話を、さも一大事のように語りかける。その大半が自慢話だった。
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