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第12章「同居者・色男講師ヤイ」
前の章の最後で、チラリと登場したヤイ。
彼とは一時期寝食をともにしていた。ぼくがもっとも親しくした講師だ。
出身地はギニアだが、フランスのパスポートをもつ。機械工学のエンジニアで、ここでは数学と物理を教えていた。
その1「ヤイと同居のきっかけ」
いっしょに住み始めたいきさつは、こうだ。
職員室で彼と初めて会った時、いきなりヤイがこう提案してきた。
「いっしょに住もうぜ」
「ああ、いいよ」
何のためらいもなくぼくは同意した。
ぼくは元々好奇心が人一倍強い。その上そのころは若かったから、あらゆる事が未知への扉に思えた時期だった。それまで外国人といっしょに住んだことはない。ましてアフリカの黒人と同じアパートに住む機会はめったにない。ただそんな理由で即決したのだった。
相手がどんな人物か、まったく知らずに。
その2「ヤイと初めて借りた家」
すぐにふたりで家を借りた。
場所は、職場から20分ほど離れたハッシと呼ぶ小さな町だった。ハッシというのは井戸のことらしい。
中庭を囲むように家々が建っている。離れが2軒あり、貸家として空いていた。その一軒をふたりで借りた。
居間は広すぎるほどだった。しかし台所もトイレも清潔ではない。風呂もついていたが、快適とはいえなかった。シャワーを使うたびに排水口がつまる。湯はしばしば途中で水になる。そのうち引っ越ししたいと考えるようになった。
それでも入居したてのころは、とにかくうれしかった。
宿舎では入り口にいつも監視が立っていた。彼らの目から逃れられただけでも、ほっとしたものだ。
引っ越して間もなくパーティーを開いた。
男2人の住まいだが、いろいろな料理を作った。20人ほどの人間を誘って、大いに盛り上がった。
その3「ヤイの趣味」
同居するうちに、だんだん彼についていろいろなことがわかってきた。
彼はマルセイユに家族を置いて単身赴任している。
いずれは呼び寄せるつもりらしい。ただし彼の行動からは、あまり家族といっしょに住みたがっている風には思えない。
独身貴族を楽しんでいて、かえって家族のいないほうが彼自身満足しているように思えた。
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