第12章「同居者・色男講師ヤイ」

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彼はフランスにいる時から、夜な夜な出歩くのが趣味。 狩りでもするかのように女の子を引っかけて回るのが、日課だった。そのことは同居していて、うすうす気づいていた。  はっきりと知ったのは、断食月の休暇中のこと。  ぼくは彼の家族を訪ねてフランスにいった。  夕食後ヤイに誘われて外出した。町から帰ったときには、もう深夜になってた。  そのとき、セネガル人の奥さんからこう話しかけられた。 「今夜は楽しかった? でもちょっとフラれたみたいね。毎晩ああやって出歩くんだから。困った主人だわ」 そういっても、それは彼の生活習慣といったようすだった。 とくに浮気がどうのと問題にしているふうではない。  彼はイスラム教徒。  4人まで妻をもてる。といっても彼にその気はないらしい。というか、そもそもイスラム信者らしくない。  第1に彼がお祈りする姿を見たことがない。豚肉、ハム類は禁止のはずだが、問題なく食べている。酒は好きでよく飲む。  ただし彼は信仰心がないと、決めつけるわけにはいかない。  同じイスラム教徒でも国や民族が違えば、かなり違うと聞くからだ。   その4「ヤイの女たち」  話を、引っ越しパーティーのあとに戻そう。  それからいく日もしないうち、女性が何人もぼくらの家に出入りするようになった。前の章で登場した黒人美容師ファティマと、スペイン語通訳のジェミラもそうだ。  とにかく、ヤイは女の子たちとすぐ仲良くなった。  モテ男ぶりは、天才的だ。というか、もって生まれた性分なのか。 黒人女性とは、黒人同士通じ合うものがあるのか、すぐ親しくなる。白人女性に対しては、黒人を神秘的に感じさせるのがうまいのか、やっぱり仲良くなる。 「ヤイはハンサムでない。収入もぼくと同じくらいで、そこそこ。性格はいいかげんで、浮気性だ。何でそんなヤツがモテるんだ?」 当時は不思議に思った。  ずっとあとになって、アフリカ諸国を回ってようやく分かった。  それは、ぼくでもモテたから。要するに、とにかく声をかければいいんだ。あいさつを、いつでも誰とでもする。町ですれ違いざま。エレベーターの中で。喫茶店でも…いう調子だ。   女の子にとって、外国人は金回りのよい特権階級。
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