0人が本棚に入れています
本棚に追加
タイムリミットは午前零時。これじゃ、ハンドルを握ったシンデレラだ。
午後1時00分。
やっとモロッコに入る。
以前書いたように、スペインでは1時間の夏時間、それに元来の時差を足すと、2時間の時差になる。すでに120分のロスだ。
地図を買い、ルートを検討する。どうも地中海に沿って北部の海岸線を走るほうが、近道のような気がした。
あとでわかったが、実はこれが大きな間違いだった。
いったん南下し、モロッコ北部を横断する幹線道路を利用すべきだった。道も広く、整備されていて、ずっと速く走れたらしい。
人に聞けばよかったが、そんな気は起こらなかった。ここ数日のたび重なる苦難で、頼れるのは自分だけだと信じていた。
その8「モロッコ横断へ」
午後1時08分。
走り始めて間もなく山道の連続となった。道路はでこぼこ、車体がピョンピョン跳ね上がる。何度も頭が天井にぶつかりそうになった。
時間は刻々と過ぎていく。
しかし曲がりくねった道のため、スピードは出せない。おまけに目一杯の荷物を積んでいるので、加速も思うにまかせない。
午後3時13分。
まだ山道は始まったばかりだ。このままじゃ、間に合いそうにない。ぼくはあせった。
「えい、無理にでも速度を上げて……」
アクセルを思い切り踏む。スピードメーターの針は、時速100キロ近くを指した。次のカーブを曲がろうとしたら、突然対向車が現れた。どでかいトレーラーだ。
「危ない!」
思わずハンドルを切り、ブレーキを踏む。後ろに乗せた荷物の一部が、前の座席まで倒れてきた。
よく見ると前方に道がない。
降りて確かめてみる。車体が3分の1近く、崖からはみ出していた。荷物が重過ぎたから、後ろに重心が残ったらしい。それで助かったようだ。
下のほうから川のせせらぎが聞こえる。あやうく谷底に落ちるところだった。
もう少しで、あの交通標語
『せまい日本 そんなに急いで どこにいく』
ではなく
『広いモロッコ そんなに急ぐと あの世いく』
になっていた……。
その9「ガソリン危機」
午後4時03分。
ガソリンが残り少なくなってきた。しかしすでに200キロメートル走っているが、ガソリンスタンドはひとつも見ていない。
最初のコメントを投稿しよう!