第27章「モロッコ入国できず(後編)」

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タイムリミットは午前零時。これじゃ、ハンドルを握ったシンデレラだ。    午後1時00分。  やっとモロッコに入る。  以前書いたように、スペインでは1時間の夏時間、それに元来の時差を足すと、2時間の時差になる。すでに120分のロスだ。  地図を買い、ルートを検討する。どうも地中海に沿って北部の海岸線を走るほうが、近道のような気がした。  あとでわかったが、実はこれが大きな間違いだった。  いったん南下し、モロッコ北部を横断する幹線道路を利用すべきだった。道も広く、整備されていて、ずっと速く走れたらしい。  人に聞けばよかったが、そんな気は起こらなかった。ここ数日のたび重なる苦難で、頼れるのは自分だけだと信じていた。 その8「モロッコ横断へ」    午後1時08分。  走り始めて間もなく山道の連続となった。道路はでこぼこ、車体がピョンピョン跳ね上がる。何度も頭が天井にぶつかりそうになった。  時間は刻々と過ぎていく。  しかし曲がりくねった道のため、スピードは出せない。おまけに目一杯の荷物を積んでいるので、加速も思うにまかせない。   午後3時13分。  まだ山道は始まったばかりだ。このままじゃ、間に合いそうにない。ぼくはあせった。 「えい、無理にでも速度を上げて……」  アクセルを思い切り踏む。スピードメーターの針は、時速100キロ近くを指した。次のカーブを曲がろうとしたら、突然対向車が現れた。どでかいトレーラーだ。 「危ない!」  思わずハンドルを切り、ブレーキを踏む。後ろに乗せた荷物の一部が、前の座席まで倒れてきた。  よく見ると前方に道がない。 降りて確かめてみる。車体が3分の1近く、崖からはみ出していた。荷物が重過ぎたから、後ろに重心が残ったらしい。それで助かったようだ。  下のほうから川のせせらぎが聞こえる。あやうく谷底に落ちるところだった。  もう少しで、あの交通標語 『せまい日本 そんなに急いで どこにいく』 ではなく 『広いモロッコ そんなに急ぐと あの世いく』 になっていた……。 その9「ガソリン危機」  午後4時03分。  ガソリンが残り少なくなってきた。しかしすでに200キロメートル走っているが、ガソリンスタンドはひとつも見ていない。
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