第27章「モロッコ入国できず(後編)」

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「ひょっとしたらこの先ずっとないのかもしれない。どうしよう、このままガス欠で立ち往生するんだろうか……」  いよいよあせってきた。  とにかく今は走り続けるしかない。  ところがいくら進んでも、町や村どころか家1軒見かけない。他の車も見かけない。 「うわっ、カーブだ!」 「うわっ、崖だ!」 「うわっ、危ない! 木が倒れてる」 「うわっ、何か動物が飛び出した!」  そうこうするうち、景色が少し変わってきた。  険しい山道から少し平坦な道となる。地名の書かれた看板が立っていた。聞いたことのない町だ。 「この小さな町にガソリンスタンドがなければ、もうアウトだ」  ほどなくして、それは見つかった。さっそく車を停めた。店の奥から、背の高い年配の店員がゆっくりと出てきた。 「満タンにしてくれ」 「それはダメだ。5リットルまでだ」 「どうして?」 「そういう決まりだから」  5リットルじゃ、せいぜい5、60キロしか走れない。あと400キロはあるというのに。 「そこを何とか、お願いします」 「そんなことをいわれてもな」 「満タンとはいわない、せめて倍の10リットルでも…」  ここでしくじったら、もうあとがない。  そう思うと、目に熱いものがあふれてきた。今にもこぼれそうだ。まぶたは涙で満タン。  東洋人の必死の訴えに、店員もついに折れてくれた。 「わかったから、もう泣くな。10リットルだけ入れてやる」  なんだか、米びつにお米が半分ほど入ったような充足感がした。少し余裕が出てきた。  涙も出てきた。今度はうれし涙だ。 その10「アルジェリア国境へ」  午後5時21分。  それから数十キロ走ると、道はさらに平坦となった。  ぽつぽつ家も見かけるようになった。ガソリンスタンドがいくつもある。だんだん市街地に向かっているようだ。もう心配ない。ここまでくると、ようやく先が見えてきた。  あと200キロも走れば、幹線道路と合流する。  思えばきょうはホテルで朝食を取ったきり、何も口にしていない。しかし今そんな余裕も暇もない。すでに夕暮れが迫ってきている。 「とにかく急がなければ!」 と思うと、なぜか空腹も感じなかった。  午後8時42分。  小さな町ウジュダ付近を走行中だ。何の変哲もない殺風景な所だ。でもこの町が、国境にいちばん近い。
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