0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひょっとしたらこの先ずっとないのかもしれない。どうしよう、このままガス欠で立ち往生するんだろうか……」
いよいよあせってきた。
とにかく今は走り続けるしかない。
ところがいくら進んでも、町や村どころか家1軒見かけない。他の車も見かけない。
「うわっ、カーブだ!」
「うわっ、崖だ!」
「うわっ、危ない! 木が倒れてる」
「うわっ、何か動物が飛び出した!」
そうこうするうち、景色が少し変わってきた。
険しい山道から少し平坦な道となる。地名の書かれた看板が立っていた。聞いたことのない町だ。
「この小さな町にガソリンスタンドがなければ、もうアウトだ」
ほどなくして、それは見つかった。さっそく車を停めた。店の奥から、背の高い年配の店員がゆっくりと出てきた。
「満タンにしてくれ」
「それはダメだ。5リットルまでだ」
「どうして?」
「そういう決まりだから」
5リットルじゃ、せいぜい5、60キロしか走れない。あと400キロはあるというのに。
「そこを何とか、お願いします」
「そんなことをいわれてもな」
「満タンとはいわない、せめて倍の10リットルでも…」
ここでしくじったら、もうあとがない。
そう思うと、目に熱いものがあふれてきた。今にもこぼれそうだ。まぶたは涙で満タン。
東洋人の必死の訴えに、店員もついに折れてくれた。
「わかったから、もう泣くな。10リットルだけ入れてやる」
なんだか、米びつにお米が半分ほど入ったような充足感がした。少し余裕が出てきた。
涙も出てきた。今度はうれし涙だ。
その10「アルジェリア国境へ」
午後5時21分。
それから数十キロ走ると、道はさらに平坦となった。
ぽつぽつ家も見かけるようになった。ガソリンスタンドがいくつもある。だんだん市街地に向かっているようだ。もう心配ない。ここまでくると、ようやく先が見えてきた。
あと200キロも走れば、幹線道路と合流する。
思えばきょうはホテルで朝食を取ったきり、何も口にしていない。しかし今そんな余裕も暇もない。すでに夕暮れが迫ってきている。
「とにかく急がなければ!」
と思うと、なぜか空腹も感じなかった。
午後8時42分。
小さな町ウジュダ付近を走行中だ。何の変哲もない殺風景な所だ。でもこの町が、国境にいちばん近い。
最初のコメントを投稿しよう!