第27章「モロッコ入国できず(後編)」

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わずか5分でウジュダを通過、あとは国境に向かって突っ走るだけだ。    午後10時44分。  近いといっても国境へは、さらに2時間かかった。  夜中にやっとアルジェリアの国境にたどり着く。  そこにはそれぞれの国の警備兵がいて、入国管理事務所があった。その間は数百メートル離れていて、緩衝地帯となっている。国境という長い帯の両側に、兵隊と建物が存在するわけだ。  この間にも1時間の時差がある。つまりモロッコでは午後11時前でも、アルジェリアではもうすぐ午前零時というわけだ。 「早く、早く…」 と心の中ではあせりながらも、表情には出さずモロッコでの出国審査を終える。    午後10時52分。  通行ゲートから緩衝地帯へ。  まだここで、あわててはいけない。もし急発進でもしたら、たちまち疑われる。ややゆっくりめの速度で車を走らせる。      午後10時57分。  ようやくアルジェリア側に着いた。こちらでは、ほとんど12時。ようやく間に合った。  だけど、まだ難関は残っている。  アルジェリアの税関だ。ここは、今まで何度となく通った。しかし今回は、いつもと違う。車一杯の荷物がある。大型のラジカセやポケットコンピューターもある。しかも、それぞれ2台ずつ。 「問題にならなければ、いいが……」  この数日間さんざんイヤな目にあったので、作戦をふたつ立てることにした。うまく隠す作戦か、係官を懐柔する作戦だ。  まずはモロッコで使った、大事な物はうまく隠す作戦を実行する。  最初は本の詰まった箱を、係官に見せる。商売や密輸をするたぐいの人間でないことをアピールした。真面目な正直者と思わせる。 「次もってこい」  今度は、日用品雑貨や衣類だ。 「次は何だ?」  係官は少々うんざりしている。真夜中だし、集中力が落ちてきているようだ。  ここでラジカセの出番だ。  といっても、そのまま丸ごと見せるわけにはいかない。幸いにもこのラジカセは、2台とも本体とスピーカーが分離するタイプ。別々に見せていく。  タイミングもずらして間に普通の荷物もはさんで見せる。係官は普通の機械の一部品とでも勘違いしたのか、興味を抱かなかった。  さらにポケットコンピューターも、うまく通過させた。  いくつもの段ボール箱や、数多くの荷物の中に混じらせる。バラバラに入れて隠したので、係官は気づかない。
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