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池永は二人のあいだになにがあったのか考えもつかなかったが、立話ではすまないと思い、仕事のあと間山と会うことを約し、その場を終わらせた。間山は窓から入る朝陽を浴びながら軽い足どりで廊下の向こうへ消えて行った。
夕方、池永と間山はオフィス近くのコーヒーショップにいた。
「別れたなんて、どうしたんだ」
合点のいかない池永は問いただすように訊いた。
「それが、いい彼女ができてしまって・・・」
「しかし、この前は大川のことが好きだって言ってたじゃないか。彼女のことはどうするんだ」
「それが、彼女にも新しい彼ができたらしいんです」
間山は愉しそうに応えた。
「なんだって。それで、彼女はいまどうしてるんだ」
「このあいだ訊いたら、その彼氏ともういい仲になったって言ってましたよ」
池永の頭は混乱していた。
「しかし、君はそれでいいのか」
彼は急きこむように言葉を継いだ。
「ええ、彼女も幸せそうだし、僕も気分がいいですから」
間山は笑顔で応えた。
池永はにこやかに笑う間山の顔をまじまじと見入った。
「それで、新しい彼女とはどうして知りあったんだ」
池永は気をとりなおして訊いた。
「電車で会ったんです」
「電車で?」
「はい、先週の朝、通勤電車のなかで偶然眼が会って、それで話はじめて、すぐに親しくなりました」
「もう深い仲になったのか」
ありえないことだと思いながら、池永は訊いた。
「ええ、まあ、そういう意味ではそういくことかと」
間山は幸せそうな笑顔を見せた。
池永は、一体どんなことがあったら、こんな腑抜のような顔になるのかと思い、一瞬怖くなった。
「それで、大川さんは・・・」
言いかけて彼は言葉を呑んだ。彼女のことは彼女自身に訊くべきだと思いいたったからだ。
〈何か妙だ。こんなにふあふあと気分が変るとは〉
彼は間山の無邪気な笑顔をしばらく見ているうちに、あることに気づいた。
〈そうだ、これがひょっとしたらLの副作用かも知れない。しかし、こんな副作用があるとすれば、世の中大変なことになる〉
彼は自身の頭に浮かんだ考えに、なにか言い知れぬ不穏なものを感じた。
翌日、池永と香里は大川を同じコーヒーショップへ誘った。
「間山から聞いたんだけど、別れたんだって」
池永は大川の顔色を窺いながら訊いた。
「はい、別れました」
彼女は呆気なく応えた。
「あの、それで大丈夫なの」
香里も恐るおそる訊いた。
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