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最近では、アイディアを得るために、インターネットで海外のコンテンツをあてもなく渉猟することに多くの時間を費やしていた。なんらの原則も規則性もなく、ただひたすら様ざまなサイトを探してマウスでクリックを繰り返す。はじめのうちは、オフィスで集中してそのような探索をしていたが、最近は自宅でもただ漠然と同じこと繰り返していた。
彼は自身で自覚することなく、サイバースペースの彷徨える旅人になっていた。
深夜、横浜の自宅で池永はパソコンに向かっていた。アメリカのサイトを開いていくと、眼を惹くひとつの記事にいきあたった。
「L‐エクスピダイトは愛を生む。Lは恋愛上手。Lは世界平和をもたらす神からの授かりもの」
画面上のヘッドラインにおおきなアルファベットが踊っていた。
彼は詳細を見ようとヘッドラインをクリックしたが、あっけないほど簡単な説明が眼にはいった。
「誰にでも手にはいるL。いますぐオーダーしよう。下記のフォームに住所などを記入してクリックするだけ。コストは十錠でわずか十二ドル。お支払はクレジットカードで。一週間でLが届きます」
説明書きの下に注文するための簡単な欄が設けてあり、その下にごく小さい字の説明があった。
「大量に呑むのは危険です。必ず医師の指示に従って服用してください」
何度か内容を読み返したが、彼は意味を?みかねた。
〈なにやら薬のようにも見えるが、これといった効能も記されていない。安い価格からみて麻薬類でもなさそうだ〉
彼は注文するため、クリックすべく指を動かしたが、どうせ、まがい物だろうという考えが頭をかすめ、思い止まった。
L‐エクスピダイトについて、彼はその呼名だけは聞いていた。はじめてその名が登場したのはフェイスブックだった。それから時をおかず、ミクシイなど日本のSNSにもちらほらその名が現れはじめた。しかし、彼が実際にその商品のサイトを直接見たのはその日が初めてだった。
その商品はすでに若者の間では、波紋のように広がり始めていた。アメリカのSNSから日本のSNSへ伝播したスピードから見て、これはおそらく爆発的に広がるのではないか、と彼は思った。そう思った瞬間、彼は恐怖とも快感ともつかぬ奇妙な感覚に囚われた。
眼に疲れを覚えた彼が椅子から立ち上がり、窓のカーテンを開けると、家家の甍がどこまでも連なり、白みはじめた灰色の空の彼方に消えていた。
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