第1章

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 オフィスでも池永の頭にその商品の宣伝文句が浮かんで消えなかった。 「おい、どうしたんだ、ぼーっとして」 眼を上げると、同僚の篠山の顔があった。 「ランチ行かないか」 「えっ、もんそんな時間か」 池永がちょっと驚いて時計を見た。 「おまえ、仕事し過ぎじゃないか」 篠山が微笑んで言った。  サイバー・インパルスのオフィスは新宿通からワンブロック入った裏通の小さなビルにあった。 池永と篠山は階段を下り、通りに面した地下のレストランに入った。 「最近時々ぼーっとしてるけど、だいじょうぶか」 ランチ定食のスープを口に運びながら、篠山が訊いた。 「うーん、最近気にかかることがあってね」 サラダを口に入れながら、池永が応えた。 「一体なんだ、その気になることって」 「L‐エクスピダイトって聞いたことあるか」 「ああ、あるよ。若い連中がLって言っているものだろう」 「あれって、なんなんだろうな」 「なんだ、そんなことか」 「最近、ネットでもよく見るしね。どんなものかと思って」 「どうせまがい物だろう。アメリカ発の情報は詐欺的なものが多いからな。いちいち気にしてもしかたないさ」 篠山は笑っていた。 「それはそうかも知れないけど。このごろ変だと思わないか」 「変って」 篠山は池永の言うことが分らず、怪訝な表情をした。 「このごろ、あちこちで抱きあってるカップルがやたら多いと思わないか」 「・・・、うん、まあ、そう言えばそうかな」 「ここはセーヌの河畔でもないのに、べたべたしているカップルが多すぎるよ」 池永の声に力がはいってきた。 「うん、まあな、そう言えば・・・」 篠山は池永の声に押されて頷いた。 「Lのサイトを見たけど詳しい説明もなくて、どんな商品でどんな効能があるのかもさっぱり分らないしね」 池永は篠山の顔をみて言った。 「へー、そうなのか。僕もいちど見てみようか。それで、べたべたするカップルとその商品となんの関係があるんだい」 L―エクスピダイトのサイトを見たことがない篠山は、池永の話がもうひとつ理解できなかった。 「そのサイトを見れば分るけど、Lというのは、何というか、そのー、人に恋愛感情をおこさせるというんだ」 池永は言葉に窮しながら話した。 「それを呑めば恋が芽生えるってことか」 篠山はますます腑に落ちない表情になった。 「それが、よく分らないけど、サイトの説明を見る限りそうとれるんだ」
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