第1章

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「そんなこと、本当にあるのかな」 篠山は信じられないという表情をしていた。 「効果のほどは分らないけど、それが医薬品だとすれば厚労省の承認が必要だけど、それはどうなってるんだろう」 池永も納得できない表情をして言った。 「まあ、承認は必要だけど、少額だと輸入検査も緩いから通っちゃうんだろうな。」 「そうか、そうかも知れないな。しかし、呑んだらどうなるのかな。買って呑んでみようかと思うんだけど」 「おい、それアメリカでは承認されているのか」          「いや、まだされてないと思うよ」 「それなら、やめたほうがいいよ。麻薬でも入っていたらどうする」 篠山は真顔で言った。 「そうか、そういうこともあるのかな」 二人は顔を見あわせた。レストランを後にした時、昼休の時間   はとおに過ぎていた。  オフィスで午後の仕事を続けていた池永は眠気を覚え、炊事場へコーヒーをとりに行った。そこで彼は信じられない光景を眼にした。後輩社員の大川洋子と間山徹が抱きあっていた。池永はなにか悪いものを見たかのように眼をそらし、慌ててその場を立ち去った。 〈一体どうしたんだ。あの二人はそういう仲だったのか。いや、それにしてもあんな場所で、ありえないことだ。まさか、あの二人、Lのせいじゃないだろうな〉 その午後、眼の前に抱きあう二人の姿が浮かび、彼は仕事が手につかず退社まで上の空で過ごした。  池永と香里は、横浜港に臨むレストランにいた。 「どうかしたの。元気ないみたいね」 香里がジンジャーエールのグラスを置いて池永に訊いた。 「うん、ああ、ここんとこ仕事が立て込んで、疲れたみたいだ」 「あら、そうなの。それであんまりメールもくれなかったの」 香里が強い視線を池永に向けながら言った。 「ごめん。でももうだいじょうぶだ。今回は契約の締切にも間にあったしね」 池永が香里の眼を見て応えた。 「まあ、本当かしら」 香里は柔らかそうな頬を揺らし、綺麗な白い歯を見せて微笑んだ。  食事を終えた二人はレストランを後にし、山下公園を歩いた。初冬の陽射を浴びた並木の影のなかを暫く歩いて行くと、池永は異様な雰囲気を感じた。木蔭のあちこちでカップルが強く抱きあっていた。海岸に眼を移すと、そこでも歩道の手摺によりかかるようにして幾組かのカップルがひしと抱きあっていた。
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