第1章

8/31

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
このニュースをうけ、各国の製薬メーカーは一斉に生産準備に入りはじめた。日本の製薬メーカーも遅れまいと厚労省に働きかけたが、 同省の反応は相変わらず鈍く、メーカーは苛立ちを募らせた。 しかし、厚労省がどう動こうが、愛用者は気にすることはなかった。国内生産がなくとも、いまもやっているとおり、アメリカ製品を輸入すればすむことだった。  それから二か月後、FDAは正式にL‐エクスピダイトを承認した。  恵比寿のワインバーで大川洋子と間山徹はテーブルをはさんで池永と香里に相対していた。 「君たちがそういう仲だったとはね」 池永が微笑んで言った。 「まいったな、見られちゃったんですね」 間山は照れながら応えた。 「いや、べつに見る気はなかったんだけど偶然さ。いつごろからそんなことになったんだい」 池永がさらに相好を崩して訊いた。 「それが、僕たちにもよく分らないんです」 間山は隣の大川の顔を見ながら言った。 「でも、お互い意識しはじめた時のことは憶えてるんじゃない」 香里が二人の顔を見て言った。 「でも、本当なんです。ある日、気がついたら抱きあっていたんです」 大川が眼を見開いて応えた。 「そうなんです。洋子はタイプじゃないし、意識なんかしてなかったんですよ」 間山が言葉を継いだ。 「あら、いやだ。私だって徹なんかタイプじゃないし、なぜこんなことになったのか、ぜんぜん分らないんです」 池永と香里は二人の言っていることが腑に落ちなかった。わずかな沈黙のあと、池永が口を開いた。 「まさか、君たちL‐エクスピダイトを呑んだのかい」 「ええ、呑みました」 間山が応えた。 「大川さんも呑んだの」 香里が訊いた。 「ええ、呑んでます」 大川は事もなげに応えた。 「やっぱりそうだったのか。だけど、どうやって手に入れたんだい」 ワインをひと口呑んで、池永が訊いた。 「ウェブサイトから注文したら、二週間くらいで届きましたよ」 間山が応えた。 「いつから呑んでるの」 こんどは香里が訊いた。 「もう一か月くらいはたつわ」 大川が応えた。 「それで、なにか変ったことがおこったのかい」 池永が焦るように訊いた。 「それが、なんだかよく分らないですが、呑みはじめてしばらくすると、洋子のことが急に気になって、それまではそんなことはなかたんですが・・・」 間山がにこにこしながら応えた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加