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このニュースをうけ、各国の製薬メーカーは一斉に生産準備に入りはじめた。日本の製薬メーカーも遅れまいと厚労省に働きかけたが、
同省の反応は相変わらず鈍く、メーカーは苛立ちを募らせた。
しかし、厚労省がどう動こうが、愛用者は気にすることはなかった。国内生産がなくとも、いまもやっているとおり、アメリカ製品を輸入すればすむことだった。
それから二か月後、FDAは正式にL‐エクスピダイトを承認した。
恵比寿のワインバーで大川洋子と間山徹はテーブルをはさんで池永と香里に相対していた。
「君たちがそういう仲だったとはね」
池永が微笑んで言った。
「まいったな、見られちゃったんですね」
間山は照れながら応えた。
「いや、べつに見る気はなかったんだけど偶然さ。いつごろからそんなことになったんだい」
池永がさらに相好を崩して訊いた。
「それが、僕たちにもよく分らないんです」
間山は隣の大川の顔を見ながら言った。
「でも、お互い意識しはじめた時のことは憶えてるんじゃない」
香里が二人の顔を見て言った。
「でも、本当なんです。ある日、気がついたら抱きあっていたんです」
大川が眼を見開いて応えた。
「そうなんです。洋子はタイプじゃないし、意識なんかしてなかったんですよ」
間山が言葉を継いだ。
「あら、いやだ。私だって徹なんかタイプじゃないし、なぜこんなことになったのか、ぜんぜん分らないんです」
池永と香里は二人の言っていることが腑に落ちなかった。わずかな沈黙のあと、池永が口を開いた。
「まさか、君たちL‐エクスピダイトを呑んだのかい」
「ええ、呑みました」
間山が応えた。
「大川さんも呑んだの」
香里が訊いた。
「ええ、呑んでます」
大川は事もなげに応えた。
「やっぱりそうだったのか。だけど、どうやって手に入れたんだい」
ワインをひと口呑んで、池永が訊いた。
「ウェブサイトから注文したら、二週間くらいで届きましたよ」
間山が応えた。
「いつから呑んでるの」
こんどは香里が訊いた。
「もう一か月くらいはたつわ」
大川が応えた。
「それで、なにか変ったことがおこったのかい」
池永が焦るように訊いた。
「それが、なんだかよく分らないですが、呑みはじめてしばらくすると、洋子のことが急に気になって、それまではそんなことはなかたんですが・・・」
間山がにこにこしながら応えた。
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