僕が君に触れるとき

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***  そんな日々を続けて、もう15年が経った。高校二年生の夏にこの部屋に入った時、僕たちはまだ16歳の、小さな世界で生きている何も知らない子供だった。  いつも通り部屋の前に行くと、美湖は読書をしていた。ただ一つ違うのは、彼女が持っている物が文庫本からタブレット端末に変わったことだ。美湖は紙の方が好きだといつも言うけれど、もう紙をめくるタイプの本はこの世界から絶滅しかけていた。  それに、抗菌処理がタブレットだと楽なので、医師の判断でタブレットで自由に買って読んだ方がいいだろうと判断されたという理由もあった。  美湖は年を取っても美しかった。僕たちはいつのまにかもう30歳を過ぎていて、美湖が外で暮らしていたあの頃とこの檻のような部屋で過ごしている時間が等しくなろうとしていた。 「ねえ、私は本当に外に出たら死ぬのかしら? 最近疑問だわ。あんなに命が持たないと言われていたのに、この中で15年も暮らしているのよ?」 「そうだね。僕も最初は君が儚く散る桜のようだと思っていたけれど、今は踏まれてもなお生き続ける雑草のようだと感じてるよ」 「雑草だとはよく言ってくれたものね」  美湖はふわりと微笑んだ。
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