僕が君に触れるとき

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「美湖、好きだよ」  そして僕は、ここに美湖が来てから毎日言っている言葉を口にする。  美湖は僕の方に目線を向けた。 「そんな陳腐なセリフでは私には伝わらないと言っているでしょう」  いつもは、ここで僕が食い下がるのが定石だった。だけれど、今日は美湖が変な本を読んでいるから、余計な質問をしてしまった。 「じゃあ、どうやったら美湖は僕が美湖のことをこんなにも愛しているということをわかってくれるの?」 「あなたが私に触れてくれれば伝わるわ」  僕に艶やかな唇で紡いだ言葉は、不可能なことだった。 「唇にキスをして、抱きしめてあなたの心臓の音を聞かせてくれさえすれば」  美湖は病気だ。美湖は今、少しの悪い菌に触れただけで死に至る。だからこうして、ガラス越しの真っ白な部屋に閉じ込められている。まるで動物園にいる動物のように、廊下を過ぎる人に好奇の目で見られながら。
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