僕が君に触れるとき

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「そんな……美湖は僕に美湖を殺してくれと言っているようなものだ」  世界で一番美しい僕の好きな人は、僕に自分を殺せという。それだけが僕が彼女を愛しているという事実を証明する方法だという。 「私は殺されるならあなたがいいわ」 「僕は美湖に生きていて欲しい」  なぜ僕は、美湖が僕の隣にいるうちに気持ちを伝えなかったのだろう。美湖に気持ちを伝える機会は何度でもあったのに。美湖に触れることなんて、ほんの少し前は簡単だったのに。  手を伸ばせばそばにいた美湖が、今はこんなにも遠い――。 「あなたは私にこの檻の中で生きていけと言うの?」 「いつか出られるよ」 「出られないわ。自分のことは一番わかっているもの。あなたも医者の卵なんだから、わかるでしょう?」  美湖が病気になってから、僕は必死に勉強して、医大に入って学んでいる。どうにかして美湖の病気を治せないかと奔走しているけれど、知識に触れれば触れるほど、美湖の病気は治ることがないのだろうという現実が僕に突き刺さった。
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