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ナオキはいつものように勇者たちの部屋をノックした…だが、いつもならすぐに聞こえる返事が聞こえない。ナオキはゆっくりと部屋の扉を開いた。
そこには誰の姿もなかった…
『こんなに早く鍛錬でもあるまい…』
ナオキは部屋を出ると地下にある鍛錬場へと向かった…しかしそこにも人のいた気配はない。外に出ると、マツがいて、ナオキに声をかけてきた。
『ナオキ、どうした?』
『マツ様、勇者たちを見かけませんでしたか?』
『いないのか?』
『はい…』
『まさか…』
マツはそう言うと階段を駆け上がっていった。ナオキも慌ててその後に続いた。
マツは階段を登りきると王の間の扉を開けた。
『マツ殿、いかがされた?』
唐突な来訪に、アツシが声を上げる。
『タカヒロに聞きたいことがある…』
『わたしにですか?』
マツの声に応えるように、奥からタカヒロが現れた。
『タカヒロ、お前ならば分かるだろう?勇者たちはどこへ行った?』
『わたしに聞かずとも、分かっておいでなのではありませんか?』
『やはり、彼らは元の世界に戻ったのだな…』
『え?』
マツの言葉にナオキから、気の抜けたような声が漏れた。
『彼らの役目が終わった今、いつ扉が開いてもおかしくはなかったのですよ』
『ならば、我らにも一言伝えてくれても良かっただろう…別れも礼も伝えておらぬではないか』
『彼らはそんなものを望みはしません…それに、彼らには、きっといつかまた会うことが叶いましょう
…この世界にいるであろう、彼らにね…』
『どういうことだ?』
マツには、タカヒロの言おうとしていることが分からなかった。だが、ナオキは何かを思い出したように言った。
『彼らの世界にも、我らがいると言っておりました…ならば、この世界にもまだ出会ってはいないけれど、彼らがいるのやもしれません』
ナオキの言葉を聞いたタカヒロがにっこりと笑みを浮かべた。その笑顔は、ナオキの言葉を肯定していることを物語っていた。
『いずれ、会えるのだな…』
マツの問いにタカヒロは黙って頷いた。
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