第一章

2/11
前へ
/131ページ
次へ
ナオキはいつものように勇者たちの部屋をノックした…だが、いつもならすぐに聞こえる返事が聞こえない。ナオキはゆっくりと部屋の扉を開いた。 そこには誰の姿もなかった… 『こんなに早く鍛錬でもあるまい…』 ナオキは部屋を出ると地下にある鍛錬場へと向かった…しかしそこにも人のいた気配はない。外に出ると、マツがいて、ナオキに声をかけてきた。 『ナオキ、どうした?』 『マツ様、勇者たちを見かけませんでしたか?』 『いないのか?』 『はい…』 『まさか…』 マツはそう言うと階段を駆け上がっていった。ナオキも慌ててその後に続いた。 マツは階段を登りきると王の間の扉を開けた。 『マツ殿、いかがされた?』 唐突な来訪に、アツシが声を上げる。 『タカヒロに聞きたいことがある…』 『わたしにですか?』 マツの声に応えるように、奥からタカヒロが現れた。 『タカヒロ、お前ならば分かるだろう?勇者たちはどこへ行った?』 『わたしに聞かずとも、分かっておいでなのではありませんか?』 『やはり、彼らは元の世界に戻ったのだな…』 『え?』 マツの言葉にナオキから、気の抜けたような声が漏れた。 『彼らの役目が終わった今、いつ扉が開いてもおかしくはなかったのですよ』 『ならば、我らにも一言伝えてくれても良かっただろう…別れも礼も伝えておらぬではないか』 『彼らはそんなものを望みはしません…それに、彼らには、きっといつかまた会うことが叶いましょう …この世界にいるであろう、彼らにね…』 『どういうことだ?』 マツには、タカヒロの言おうとしていることが分からなかった。だが、ナオキは何かを思い出したように言った。 『彼らの世界にも、我らがいると言っておりました…ならば、この世界にもまだ出会ってはいないけれど、彼らがいるのやもしれません』 ナオキの言葉を聞いたタカヒロがにっこりと笑みを浮かべた。その笑顔は、ナオキの言葉を肯定していることを物語っていた。 『いずれ、会えるのだな…』 マツの問いにタカヒロは黙って頷いた。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加